東京藝術大学の学部生、大学院生による卒業・修了作品を鑑賞できる展覧会。
それが、藝大卒展。
第71回となる今年の藝大卒展は、
1月28日から2月2日の6日間、開催されていました。
会期が短いこともあって、
なんだかんだで、ここ数年タイミングが合わず。
訪れるのは、コロナ禍以降初めてでした。
久しぶりに訪れたら、いろいろ変化や、
気づきがあったので、本日はそれらをまとめて紹介したいと思います。
●全体的なレベルが確実にアップしていた
以前に訪れた際の記憶がおぼろげ。
そういった理由も無きにしも非ずなのですが、
いやいや、それを差し引いても、全体的なレベルが高かったです。
とても、一人の学生が制作、
さらに、設営までしたとは思えない、
そんなレベルの作品がゴロゴロありました。
特に顕著だったのが、デザイン科の学生の作品です。
もうプロじゃん。
学生の時点で、これほどまでのクオリティだとは!
さすが、日本の美大のトップ。
日本の美術界の未来は、しばらく安泰そうです。
ちなみに。
藝大卒展を訪れる前に、
いくつかの美大の卒展も拝見させて頂きました。
中にはもちろん、プロ顔負けの作品はありましたが、
「えっ、これが卒展に発表する作品でいいの?」と思ってしまった作家が過半数でした。
厳しい言い方をすれば、全力を出し切ったとは思えない作品が少なくなかったです。
それと比べて、藝大の卒展は本気度が高かったように思えました。
●オンラインチケットの争奪戦がエグかった
他の美大の卒展と比べて、作品全体のクオリティが高く。
なおかつ、東京藝術大学大学美術館が、
東京都美術館や会場になっていることもあり。
(補足:藝大キャンパス内のいくつかの施設も会場になっています)
一般的な現代アート展と比べても、遜色のないレベルの藝大卒展。
と、それだけに、業界内だけでなく、
美術ファンからも年々注目が集まっているようで、
初日とその翌日のオンラインチケット予約分は、速完だったそう。
年々、プレミアムチケットと化しているようです。
この傾向はおそらく、来年以降も、さらに加速していくはず。
藝大卒展と他の美大の卒展の間で、
注目度を含め、さまざまな格差が開いていくことでしょう。
ウエストランドのネタ的にいえば、
「藝大卒展にあって、他の美大の卒展に無いものは?」
「夢!希望!卒展の価値!」
といったところでしょうか。
●油画がもはや油画でなくなっていた
藝大の絵画科には、日本画をはじめ、
版画、壁画、油画技法・材料と併せて、
西洋画科から改称された油画科があります。
当然、その卒業制作の作品は、
油彩画の平面作品が多いのだろうと思っていましたが・・・。
半数以上の卒生の作品が、
インスタレーション作品でした。
・・・・・油画って、何かね?
とはいえ、油画科だからといって、
油画に捉われない、この傾向は非常に興味深く感じました。
個人的には、いいぞもっとやれ、という思いです。
ただ、日本画科のみなさんは、
ちゃんと真っ向から自画像を描いていたので。
(注:藝大の卒展では、自画像も制作するのが慣習になっている)
油画の卒生たちの自画像の数々を観て、軽く混乱しました。
・・・・・自画像って、何かね?
最後に。
印象に残った作品は多々ありましたが、
その中から厳選に厳選を重ね、3作品をご紹介いたしましょう。
まずは、工芸科染色の戸部珠海さんによる《得られる情報》。
引きで見ると、無数の経糸に、カラフルな横糸が編まれ、
さまざまな人のシルエットが浮かび上がっているように思えます。
しかし、近づいて観てみると、ただの横糸ではなく。
おそらく、雑誌やチラシの一部が編みこまれていました。
それも、そのシルエットの持ち主に関係があると思われる雑誌やチラシの一部。
ビジュアルの面白さとコンセプトの面白さが絶妙に両立した作品でした。
続いては、彫金の久保歩美さんによる《Maturity》。
一瞬、「なんだただのブドウか」とスルーしかけましたが、
七宝や打ち出しの技法を使って制作された金属作品とのこと。
それを踏まえて改めて観てみても、
ただのブドウにしか見えませんでした。
「なんだ、ただの・・・」といえば、
彫刻科の亀田満紀史さんによる《風にゆれる。》も。
なんだただのパーカーか・・・と思ったら。
大理石で作られたパーカーとのことでした(物干し台の土台も!)。
どう見てもパーカー。
大理石には思えません。
脳がバグる作品でした。