■ゴヤの名画と優しい泥棒
監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド
2020年製作/95分/イギリス
1961年、イギリス・ロンドンにある美術館ナショナル・ギャラリーで、
スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤの絵画《ウェリントン公爵》の盗難事件が起きる。
犯人である60歳のタクシー運転手、
ケンプトン・バントンは、絵画を人質に政府に対して身代金を要求する。
テレビが娯楽の大半を占めていた当時、
彼は絵画の身代金を寄付して公共放送BBCの受信料を無料にし、
孤独な高齢者たちの生活を救おうと犯行に及んだのだった。
(Yahoo!映画より)
「2020年の“ロンドン・ナショナル・ギャラリー展”で、
初来日したゴヤの肖像画の傑作《ウェリントン公爵》。
まさか、この作品がかつて盗難事件に遭っていたなんて。
しかも、ごく普通のおじいちゃんに盗まれていただなんて。
あらすじだけ聞くに、あまりにウソっぽい設定なので、
フィクションだと思っていたのですが、すべて実話とのこと。
まさしく、『事実は小説よりも奇なり』です。
絵画の盗難事件を題材にした映画は少なくないですが、
それらは大体、クライムサスペンスものに分類されるわけで。
しかし、この映画は、ジャンル的にはヒューマンコメディ。
国家を揺るがす盗難事件が描かれているのに、
全編を通じて、ほのぼのとした空気が漂っています。
それもひとえに、主人公(=犯人)のキャラクターのおかげ。
基本的に、めんどくさいタイプのおじいちゃんなのですが、
その根底には、他人への優しさがあるので、どうにも憎めません。
あまつさえ、チャーミングにすら思えてきました。
なお、ゴヤの絵画を盗もうと思い至ったのは、
アメリカの実業家の手に渡りそうになったのを、
イギリス政府が140万ポンドという大金で買い戻したため。
そんなお金があるなら、公共放送BBCの受信料を撤廃し、
年金暮らしの老人など貧しい人でも、テレビを無料で楽しめるようにするべき。
そう、ケンプトン・バントンは考え、行動に移したのです。
冷静に考えたら、方法としては、いかがなものかとは思いますが、
本気で、世の中のためを思って行動したことには、素直に頭が下がります。
「NHKをぶっ壊す!」と口では言うものの、
ドバイから帰国しない議員を排出したどこぞの党とは大違いですね。
ちなみに。
ナショナル・ギャラリーにある数多くの作品の中から盗まれたのが、
ゴヤの《ウェリントン公爵》だったのは、なんとも絶妙なチョイスだったかと。
これはあくまで個人的な見解ですが、
ウェリントン公爵がまぁ、ボーっとした表情で、
実に、盗まれそうな顔をしてるのです。
世の中にあるあらゆる肖像画の中でもっとも“盗まれ顔”。
それが、《ウェリントン公爵》。
(星3.5つ)」
~映画に登場する名画~