現在、練馬区立美術館で開催されているのは、
“本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション”という展覧会です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
住宅や学校、ビルなどの内壁や天井に最も多く使われている建築材料、
「タイガーボード」でお馴染みの日本国内最大手の建材メーカー、吉野石膏株式会社。
その吉野石膏株式会社が長年かけて蒐集してきた美術コレクション、
吉野石膏コレクションは、質・量ともに国内でも有数のものとして知られています。
そんな吉野石膏コレクションを初めて本格的に、
まとまった形で紹介する展覧会は、2019年に三菱一号館美術館で開催されましたが。
今回の練馬区立美術館での展覧会は、
それら西洋絵画コレクションを紹介するのはもちろんのこと、
これまでまとまった形で公開されたことが無かった、
(三菱一号館美術館での展覧会でも公開されていなかった)、
石膏美術振興財団のアートライブラリーが有する貴重書コレクションが一挙公開されています。
今でこそ、本なんて誰でも手に取れるものになっているため、
これらを見ても、「・・・まぁ、うん。本だね、、、」くらいにしか思わないかもしれませんが。
15世紀半ばに印刷術が誕生するまで、
中世・ルネサンス期のヨーロッパにおいては、
本の複製はすべて人の手で行われていました。
鳥の羽根で作ったペンにインクを付け、文字を一つ一つ書き写していく。
そんな途方もない手間と時間をかけて、本は作られていました。
しかも、その頃の本に使われていた紙は、
今のような紙ではなく、動物の皮から作られた羊皮紙です。
会場には触ってもよい羊皮紙が用意されており、
生まれて初めて、羊皮紙を直に触ってみましたが。
その感触は、当たり前ですが、紙というよりも革。
それだけに、これほど薄く削るのが、
いかに大変な職人技なのかを実感させられました。
なお、ただでさえ貴重な、その頃の本ですが。
王侯貴族や領主たちは、ただ職人に写本させるのではなく。
一流のアーティストを雇って、
豪華絢爛な写本を作らせていました。
まさしく総合芸術。
ため息モノの美しさでした。
さて、そんな中世・ルネサンス期の豪華な写本は、
印刷術が発展するのと反比例して、徐々に衰退していきますが。
19世紀半ば、産業革命で社会が急激に変化すると、
その反動として、特にイギリスで中世・ルネサンスへの関心が高まりました。
そうしたムーブメントの中でウィリアム・モリスは、
中世風の美を追求した本を次々に出版していきます。
さらに、そこに大きな影響を受けた出版社が、エラニー・プレス。
なんでも、吉野石膏アートライブラリーは、
国内随一のエラニー・プレスコレクションを誇るそうで。
それらエラニー・プレスの書籍が一挙公開されていました。
そんなエラニー・プレスを設立し、
製本以外の原画や装飾を手掛けた人物が、リュシアン・ピサロ。
その名前を聞いて、ピンと来た方もいらっしゃるかもしれませんが、
「印象派の長老」として慕われた、カミーユ・ピサロの長男に当たる人物です。
他にも、ロダンが挿絵を手掛けた、
ボードレールの『悪の華』が紹介されていたり、
梅原龍三郎や安井曾太郎ら、当時の錚々たる画家が、
監修や原画を手掛けたぬりえの練習帖が紹介されていたり。
本に関する知ってるようで知らない事実、
本と美術の意外な関係性が、次々と明らかになる展覧会でした。
見ごたえ&読みごたえのある展覧会です。
ちなみに。
意外と言えば、吉野石膏コレクションには、
日本美術のコレクションも含まれているようで、
展覧会のラストでは、それらも紹介されていました。
それらコレクションの中には、伊藤若冲や東山魁夷の作品も。
なお、今回紹介されていた日本美術コレクションの中で、
個人的に一番印象に残っているのは、岸田劉生の《麗子坐像》です。
観れば観るほど、ホンジャマカの石ちゃんに似ていました。
絵、まいうー。