春到来。今年もVOCA展の季節がやってきました。
The Vision of Contemporary Art。略して、VOCA。
VOCA展実行委員会に依頼された美術館学芸員や、
ジャーナリスト、研究者らが、これぞという40才以下の作家を推薦。
その推薦を受けた作家が平面作品の新作を出品し、その優劣を競うガチンコバトルです。
村上隆さんや奈良美智さん、蜷川実花さんといった、
日本を代表する現代アーティストたちも、若き日にVOCA展に参加。
いうなれば、VOCA展は若手作家の登竜門といった存在です。
そんなVOCA展も、今年でちょうど30年目。
会場の冒頭ではこれまでのVOCA展のポスターが一堂に貼られていました。
そんな記念すべき30年目のVOCA展、
栄えあるグランプリ=VOCA賞に輝いたのは、永沢碧衣さんです。
作品名は、《山衣をほどく》。
その身体をよく見てみると・・・・・
山間の街並みとなっていました。
ファンタジー系?鴻池朋子系??
と思ったら、さすがVOCA賞を獲るだけあって、
そうそう単純に描かれた作品ではありませんでした。
作者の永沢さんは秋田のマタギ文化に興味を抱き、
マタギの里に通うようになって数年後、自身でも狩猟免許を取得したのだとか。
現在では、マタギの人たちと一緒に狩猟をするまでに。
その際に、出合ったクマを描いているそうです。
なお、この作品に使われている膠は、
実際に狩猟したクマから、永沢さんご自身が作成したものなのだとか。
プーさんやパディントン、リラックマなど、
クマをモチーフにしたキャラクターはたくさんいますが。
永沢さんが描くクマは明らかにそれらとは一線を画しています。
長澤さんにしか描けないクマ。唯一無二のクマです。
続くVOCA奨励賞を受賞したのは、
ロシア出身のエレナ・トゥタッチコワさん。
石山駅から琵琶湖に行き、そこから信楽を目指して歩く。
その道中の様子や記憶をドローイング、セラミック、
さらに手書きのテキストで表現したインスタレーション作品です。
ロシア生まれ、ロシア育ち、ご両親ともに日本人では無いそうですが。
日本人よりも、日本語がお上手。
しかも、漢字遣いも完璧。
日本人の僕以上に、漢字を使いこなしていました。
なお、VOCA奨励賞を受賞したのは、もう一人。
第10回shiseido art egg賞を受賞した経験のある七搦綾乃(ななからげあやの)さんです。
木彫作家の印象が強い彼女ですが、
今回のVOCA展ではもちろん平面作品で勝負。
離れて観ると、まるでレースのように感じられるその正体は、
合板に墨汁を含んだ石膏を塗り、さらに、その上に石膏が塗り重ねたもの。
電動彫刻機やヤスリ、ブラシなどで、
その表面を削ることで、独特の風合いが生み出されていました。
ちなみに。
七搦さんはこの作品で、大原美術館賞も受賞。
VOCA展の賞の2枚抜き(?)を達成しています。
VOCA佳作賞を受賞したのは、
田中藍衣さんと黒山真央さんの2人。
田中さんは、一見シンプルに見えるものの・・・・・
近づいて観てみると、岩絵の具を使って、
その表面に無数の線(盛り上がり?)が描かれているのがわかります。
具体的にどんな作業をしたのか、作品を観ただけでは推し量れませんが、
途方もない作業を繰り返して制作されたであろうことは十分伝わってきました。
もう一人の黒山真央さんの作品も、
途方もない作業の末に制作されたものです。
やはり、こちらも一見すると、壁一面に、
ただ古着が並べられているだけのようですが。
古着一つ一つを、よーくご覧くださいませ、
2枚の服が1つになっているのです。
これらは兄弟や姉妹、それぞれの服を、
ニードルパンチの無数の針で、一体化させたもの。
どこか重なり合いながらも、どこか別々の感じもする、
まさに、兄弟や姉妹とはそういうもの。
そんなことを再認識させられる作品でした。
ちなみに、惜しくも受賞を逃した中にも、
今後が気になる作家が何人も存在していました。
中でも強く印象に残っているのは、
現在、森美術館で開催中の六本木クロッシングにも出展中の横山奈美さん。
こちらは、2022年9月11日から毎日1枚ずつ、計30枚、
芝生に寝そべる自分自身を繰り返し描いたものだそうです。
絵の中の彼女は、ずんの飯尾さんばりに、
平日の昼間からゴロゴロ~ゴロゴロ~、していますが。
実際は毎日この絵を描いているわけで、
むしろ真逆の生活を送っているわけですよね。
なお、どれも同じ絵のように見えますが。
Tシャツの「Forever」のロゴは、
30枚すべて、異なっていました。
永遠に変わらないものなんてない。
そんなことを訴えているのかもしれません。
それから、もう一人強く印象に残っているのが、
現在開催中のTARO賞にも出展中の都築崇広さん。
TARO賞にも合板を素材にした作品を出品していますが。
VOCA展では、またそれとは違った合板、
破片状にした木材を重ねたOSB合板を使った作品を出品しています。
OSB合板の表面の模様をじっと観ていたところ、
都築さんは、そこに風や空気の動きを感じたのだそう。
その風をより感じられるよう、森のような景色を画面に作り出すことに。
とはいえ、顔料で描くのではなく、
何気ない広告物の「緑」の部分だけをちぎり取り、
それを一つ一つ貼り合わせて、この作品を作り上げたのだそうです。
合板と広告物。
ただ、それを組み合わせただけなのに。
不思議と、長谷川等伯の《松林図屏風》を彷彿とさせるものがありました。
これらの作品でも入賞しないなんて。
さすが30周年目のVOCA展、
例年よりもレベルが高い印象を受けました。