■夢てふものは頼みそめてき Daydream Believers
漫画:灰田高鴻
出版社:講談社
発売日:2022/11/22(1巻)、2023/2/21(2巻)
ページ数:192ページ(1巻2巻ともに)
明治東京絵師ラブストーリー!
時は明治34年。絵師の青年・池田輝方は、
夢で見た理想の美女に瓜二つの女学生・榊原百合子と出会う。
輝方は運命を感じて話しかけるが、百合子はその勢いに怯えるばかり。
しかし実は百合子もまた、輝方らしき男を夢で見ていたのだった。
2人の不思議な出会いから始まる、ベイスド・オン・トゥルー・ラブストーリー!
(講談社公式HPより)
「主人公は、池田輝方。
最後の浮世絵師と呼ばれる月岡芳年の弟子で、
新聞や小説の挿絵で活躍した水野年方の門下となり、
のちに塾頭として活躍した日本画家です。
年方の『方』の一字を頂いて、輝『方』というわけです。
その名前に、ピンと来ない方もいらっしゃるでしょうが、
日本美術がお好きな方であれば、それも、山種美術館をよく訪れる方であれば、
輝方が描いた《夕立》という屏風絵は一度くらい目にしているのではないでしょうか。
ちなみに。
輝方の同門には、日本を代表する美人画家、鏑木清方もいます。
もちろん、清方の『方』の字も、年方の『方』から一字を頂いたもの。
知名度で言えば、圧倒的に池田輝方よりも、鏑木清方のほうが上ですが。
この漫画では、あえてその池田輝方を主役に、
清方は良き友人というポジションに位置付けられています。
今ではほとんど知られていない、池田輝方にスポットを当てた。
その着眼点だけでも、非常に興味深いですが。
輝方をエキセントリックで思い込みが激しく、
まっすぐすぎて周囲が引くほどの変人キャラで描いていることも、非常に興味深いです。
ジャンプ漫画の主人公なみにキャラクターが立っていますが、
「実際の池田輝方はそこまで変な奴じゃないでしょw」と思いつつ、楽しく読めます。
そんな輝方に翻弄されるもう一人の主役が、
上村松園に憧れ、のちに「東のショウエン」と呼ばれることとなる池田蕉園。
物語では2人はまだ結婚していないので、
蕉園は、榊原百合子という本名で登場しています。
こちらも、輝方に負けないくらいに、漫画的なナイスキャラ。
輝方がジャンプ漫画の主人公なら、
榊原百合子は『りぼん』漫画の主人公といった感じでしょうか。
芸術家を主役にした物語には数多く触れてきましたが、
ドタバタラブコメのテイストで描かれているのは、この漫画だけでは?
そういう意味では、とても斬新な芸術家漫画です。
また、全体的にはコメディタッチながらも、
当時の女性絵師の境遇のリアルな部分も、きちんと描かれています。
ギャグが多い分、そういったビターな描写がアクセントになっているような。
ちなみに。
池田輝方も榊原百合子も、
鏑木清方も、実に愛らしいキャラですが。
個人的には、輝方の前にいきなり登場し、
輝方と百合子の2人の関係に嵐を巻き起こす旅の絵師、
大野樵蘭という女性画家のキャラクターに大いに惹かれました。
調べてみると、どうも実在の画家のよう。
いつか彼女の実際の作品を目にしてみたいものです。
漫画は現在、2巻まで刊行されています。
池田輝方と蕉園は、美術界きってのおしどり夫婦として知られていますが、
実は婚約直後に、輝方は別の女性と失踪するというスキャンダルを起こしています。
そのあたりは、この漫画ではどう描かれるのか?!
続刊が気になって仕方ありません!
せめて夢の中で続刊が読めないものでしょうか。
(星4.5つ)」