現在、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで開催されているのは、
“浜口陽三の世界 柔らかな光と闇~浜口陽三とフランス文学者、柏倉康夫氏との対談より~”です。
(注展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
静謐な作品世界と同様に(?)、
自作について、あまり多くを語らなかったという浜口陽三。
しかし、1987年に東京で行われたインタビューでは、
自作はもちろん、自身の半生についても多くを語っていたのだとか。
聞き手を務めたのは、NHK特派員として7年間パリに住み、
浜口陽三と深く交流があったフランス文学者の柏倉康夫さん。
本来このインタビューは浜口陽三の作品集に収録される予定でしたが、
作品集の出版自体が立ち消えになったため、幻のものとなっていました。
学芸員や研究者でさえ、初耳のエピソードが続出だったという、
そんな幻のインタビューが初めて公になったのは、今から11年前のこと。
この年にも、そのインタビューを基にした展覧会が開催されたそうです。
現在開催されているのは、その2012年の展覧会のアップデート版。
ここ近年で判明した新事実も織り交ぜつつ、
インタビューの内容に沿って、陽三作品が展示されています。
基本的に、作品のすぐ近くに陽三自身の言葉が展示されているので、
まるで、陽三本人に作品解説をしてもらっているような感覚になりました。
これまで、なんとなく浜口陽三に対して、
黙々と作品を制作している職人気質なタイプをイメージしていましたが。
実は素の浜口陽三がそうだったのか。
それとも、柏倉さんのインタビュアー力の賜物か。
インタビューの途中途中で、浜口陽三の若干自慢げな姿が垣間見えました(笑)。
例えば、こちらの《黒いさくらんぼ》という作品に関して。
インタビューでは、こんなやり取りがあったようです。
柏倉:《黒いさくらんぼ》ですね。
浜口:これなどは、本当は地に青い色が入っているのですけれど…
柏倉:これは二色なのですか。
浜口:青と黒の二色です。黒一色で試作したものもあるのです…
この《黒いさくらんぼ》を見て、アメリカ人が、
「どうして、こんな簡単な構図ができるのか」というのです。
柏倉:皆そう思うと思いますね。特に欧米の人たちは驚嘆するのではありませんか。
私も幾人からの人から同じような感想を聞いたことがあります。
きっと、アメリカ人に驚かれたことを鮮明に覚えていたのでしょうね。
また、浜口陽三は生涯でいくつもグランプリに輝いていますが、
イギリスの百科事典『エンサイクロペディア・ブリタニカ』に掲載されたことのほうが、
本人曰く、自分が貰ったどのグランプリよりも値打ちがあるとのことでした。
本人にとって、よっぽど大事なことなのでしょう。
インタビューの中で、2回も同じことを言っていました。
タフデントのCMのみのもんたばりに、大事なことを2回言っています。
インタビューの生の声を通じて、
浜口陽三の人間味のようなものが感じられ、
なんだか、いい意味で、イメージが変わりました。
さて、今回の展覧会の出展作で特に注目したいのが、
1963年に発表された《4つのさくらんぼ》という作品です。
こちらはなんと、新収蔵品。
しかも、今展で初お披露目となります。
浜口陽三のカラーメゾチント作品は、
これまでに数多く目にしてきましたが。
そのどれよりも、カラフルな印象を受けました。
しかも、どこか和を感じる色彩でした。
お寺の中に飾ってあるカラフルな幕を想起させるような。
もしくは、十二単とか平安の衣装を想起させるような。
それからもう一点、見逃せないのが、
浜口陽三の代表作の一つである《パリの屋根》。
モンマルトルの丘から見える街のイメージをモチーフにしたという傑作です。
会期中ずっと展示されていますが、
4月1日から16日までの期間だけは特別に、
もっとも状態が良い1956年作の初摺りver.が展示されています。
色合いがあまりにも繊細過ぎて、
写真ではそのニュアンスは伝わりません。。。
実物はこの数倍、いや、数十倍、淡く繊細な色合いをしています。
次にいつ公開されるかわからないとのことなので、
期間中に足を運べる方は是非この機会をお見逃しなく!
ちなみに。
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションに関して、一つだけ悲しいお知らせがあります。
それは、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションのもう一つのお楽しみ、
オリジナルのマーブル醤油アイスが食べれるカフェが1月いっぱいで閉店してしまいました。
カフェだったスペースは、今は休憩スペースに。
一服付きたい方は、セルフにはなりますが、
好きなフレーバーのものを飲むことできます(1杯200円)。