もはや、「ヤマザキ春のパンまつり」に匹敵するくらいに、
美術界には浸透している府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」。
20回目を迎える今年の展覧会は“江戸絵画お絵かき教室”と題し、
美術史的な視点ではなく、「描く」という視点から江戸絵画を紹介するものです。
“あ、じゃあ、自分は絵を描かないんで、パスしようかな”
そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはご心配なく。
展覧会では、意外と知らない江戸絵画の技法、
具体的には、画材や技法、表具といったトピックを、
実際に描かれた作品を交えつつ、パネルで丁寧に解説してくれています。
また、江戸時代の画家たちが参考にしたお手本、
例えば、中国絵画やオランダ本、円山応挙作品の数々を紹介。
それらの中には、実は江戸時代になって、
初めて神格化されたという雪舟の作品もありました。
なお、前期に出展されているこちらの《倣夏珪山水図》は・・・・・
昭和8年の売り立てのあと、長らく行方不明となっており、
平成29年になって再び世に出てきて大いに話題になった作品です。
さすが20回目の記念すべき「春の江戸絵画まつり」だけに、
そういった名品の数々が、さらっとしれっと出展されていました。
また、つい最近、世に出てきたばかりという、
伊藤若冲の屏風絵も、さらっとしれっと出展されています。
《花鳥魚図押絵貼屛風》(部分)
一番左に描かれていた鳥の顔が、
なんだかディズニー映画の悪役のようでした。
たぶん、悪い魔法が使えるはずです。
他にも、つい先日まで千葉市美術館で大規模な回顧展が開催されていた亜欧堂田善や、
徳川家光によるユルい《竹に雀図》など、
見逃せない江戸絵画が多数ありました。
しかも、その大半が個人蔵。
今回の機会を逃すと、次にいつ観られるかわかりません。
また、一般的な知名度はそこまでではあるものの、
掘り出し物の作品が多かったのも、今展の大きな特徴です。
個人的に一番感動したのは、塩川文麟の《夏夜花火図》。
描かれているのは、線香花火。
パチパチと爆ぜる火花は、金泥で描かれています。
線香花火だけでなく、煙の表現も素晴らしく、
この絵と出逢えただけでも、府中市美術館を訪れた甲斐がありました。
それから、もう一点。
浮田一蕙の《蛙に落花図》も、強く印象に残る作品でした。
画面中央の少し下くらいに、
蛙が2匹だけ描かれています。
余白にもほどがあります。
ところが、よーく見てみると、
画面の上から、桜の花びらが数枚、
はらはらと落ちているのが見て取れました。
何という、オシャレなセンス!
短編アニメーション映を一本観たかのよう充足感がありました。
ある意味、印象に残っているのは、
放浪の画人として知られる蓑虫山人の《月下群雁図》。
これまで、雁をモチーフにした絵は、
何十点、何百点と目にしてきましたが、
そのどれとも被らない、独特な雁が描かれていました。
レンゲに目と足が生えているような。
謎すぎる生命体でした。
さてさて、今展のメインコーナーとも言うべきが、
動物、人物、花、山水といった「四大テーマに挑戦」のコーナーです。
例えば、いわゆる応挙犬。
生みの親、応挙やその弟子たちが、
このもふもふした犬を、よく描いたのはもちろんですが。
のちの世代の画家たちも、応挙犬を参考に多くの絵を描いています。
そんな応挙犬を描くポイントが、それも現代の画材での描き方が、
会場では、お絵かき教室というていでパネルで丁寧に紹介されていました。
(↑会場だけでなく、図録にも掲載されています!)
展覧会では、そんなお絵かき教室が、多数用意されています。
実際に描かずとも、描き方がわかることで、
「なるほど。ここはこうやって描いているのか!」
「ふんふん。ここが絵師の腕の見せ所なわけね」と、
鑑賞のレベルが一段階アップしたような気がします。
「春の江戸絵画まつり」は当たりが多いですが、
今回の展覧会は、その中でも屈指の神企画でした。
ちなみに。
展覧会を観終え、会場を出るとそこには、
リアルな江戸絵画お絵かき教室もありました。
こちらでは、用意されたキットで、実際に絵を描いてみることができます。
せっかくなので、長澤蘆雪が描く雀にチャレンジしてみることに。
指示通り、見よう見まねで描いてみたところ・・・・・
こんなスズメの姿になってしまいました。
テレンス・リー似のスズメ。