なんとなーく、東京藝術大学大学美術館では、
毎年この時期に、藝大コレクション展が開催されていますが。
今年2023年は趣向とタイトルを少し変えて、
“「買上展」藝大コレクション展2023”という形で開催されています。
「買上」とは、東京藝術大学が卒業および修了制作の中から、
各科ごとに特に優秀な作品を選定し、大学が買い上げてきた制度。
前身である東京美術学校時代からこれまでに、
東京藝術大学は、実に1万件を超える作品を買上げてきたそうです。
今回の展覧会では、その中から選りすぐりの約100点を紹介。
第1部では、藝大生の卒業制作でお馴染みの自画像をはじめ、
高村光太郎や松岡映丘といった、
日本美術史に残る巨匠たちの学生時代の作品が紹介されていました。
当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんが、
若き日から、その片鱗を存分に発揮している作家が多かった一方で。
例えば、“陶芸家として初めて文化勲章を受章された、
板谷波山は実は卒業制作では彫刻作品を作っていた?!”というように、
現在定着している作品のイメージと、
学生時代の作風がまったく違う作家のパターンもありました。
ちなみに。
手前の彫刻作品の作者は、朝倉文夫、
その奥の壁に掛けられている絵画は、小村雪岱の作品です。
キャプションがなかったら、決して彼らの作品だとは思わなかったことでしょう。
なお、そんなギャップがあるタイプの作家の中で、特に印象深かったのが東山魁夷。
卒業制作の作品は、谷内六郎が描く、古き良き昭和の児童画といったテイストでした。
これはこれで味があってよかったですが、東山魁夷感は皆無。
黒歴史・・・とまでは言い難いですが、
きっと本人たちは隠したかったであろう過去が明らかにされる、
そんな禁断の展覧会といった一面もありました。
禁断の過去と言えば、こちらの画面手前の作品も。
菱田春草による《寡婦と孤児》という作品です。
確かに、寡婦のマユゲは尋常でない太さですが、
発表された当時、この作品は「化け物絵」と酷評されたそう。
何もそこまでディスらなくても・・・。
(とはいえ、岡倉天心の采配で主席となり買上げられたそうです)
それから、巨匠たちの買上作品の中には、
こちらの赤松麟作の《夜汽車》のようなパターンも。
赤松麟作にとって、《夜汽車》は代表作と位置付けられているそう。
卒業制作(≒デビュー作)=代表作。
そういった一発屋みたいなパターンもあるのですね(→?)。
余談ですが、無限列車の車内のようなこの絵のどこかに、
煉獄さんが描かれていないか、目を皿のようにして探してしまいました。
さてさて続く第2部で紹介されていたのは、「各科が選ぶ買上作品」。
日本画科や油画科、彫刻科、工芸科はもちろん、
建築科や美術教育科、作曲科の学生たちの買上作品も紹介されていました。
ちょうど先月あたりに、この空間で、
藝大の卒展が開催されていましたが。
そのベスト盤といったような印象を受けました。
中でも特に印象に残っているのは、先端芸術表現専攻を
2018年に卒業した岡ともみさんによるインスタレーション作品。
その名も、《岡山市柳町1-8-19》。
岡山の祖母の家の記憶をテーマにした作品とのことです。
それだけに、なんか無性に懐かしい印象を受けました。
昭和時代のテレビ番組を観ているような。
しかも、ちょっとホラーチックな。もしくは、サスペンスチックな。
実は、岡さんには、先日Podcast番組に出演して頂きまして。
非常に将来が有望なアーティストだと思っていたのですが、
まさか学生時代に、これほどのクオリティの作品を制作していたとは!
今回紹介されていた第2部の作品の中で、
頭1つ、いや、2つ3つくらい飛び抜けていました。
この作品が観られただけでも、展覧会に行って良かったです。
それから、もう一人印象に残ったのが、
《LA TRUITE(鱒)》を描いた大西博という画家です。
鱒というタイトルではあるものの、
画面のどこにも鱒は描かれていません。
キャプションによると、大西博なる人物は、
歴代油画教員の中でも忘れ得ぬ個性の持ち主だったそう。
そして、“伝説の釣り人”だったそう。
2012年、琵琶湖で釣りをしている最中に、
転覆事故に遭い、49歳という若さでこの世を去ったそうです。
なるほど。よくよく見てみると、
手に持っているのは、蝶々ではなくルアーのようですね。
この絵を卒業制作している時も、釣りがしたくてしたくて仕方なかったのでしょう。