今年2023年は、「世界のムナカタ」こと、
版画家・棟方志功の生誕120年の節目の年。
それを記念して現在、富山県美術館で開催されているのが、
“生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ”という展覧会です。
出展数は作品だけで実に100点以上!
それらの中にはもちろん、《二菩薩釈迦十大弟子》や、
切手のデザインにも採用された《弁財天妃の柵》も含まれています。
さらに、版画家を志す前の初期の油彩画や、
棟方志功がデザインを手掛けたパッケージなども紹介されていました。
まさに、生誕120年を記念するにふさわしい、
史上最大規模の棟方志功の大回顧展となっています。
とは言っても、この展覧会は、
彼の代表作や資料を集めただけの、
ただの棟方志功展(?)ではありません!
素朴な性格で、一心不乱に作品を制作した版画家。
そういった棟方志功の一般的なイメージを、良くも悪くも大きく覆す革新的な展覧会です。
まず何より、印象的だったのは、
展覧会で紹介されていた若き日の志功が放ったこんな言葉。
「先を行く人 じゃまです」
実は、棟方志功には若き頃より、
上昇志向が強く、野心家の一面があったようです。
そして、シャイどころか目立ちたがり屋な一面もありました。
こちらは代表作の一つ、《大和し美し》。
昭和11年の作品で、第11回国画会展に出品されたものです。
全20図に及ぶこの長大な作品を、
棟方は4面の額に入れて搬入しようとしましたが、
既定のサイズを無視していたため、陳列拒否になりかけたのだとか。
その時、審査員だった濱田庄司と柳宗悦が、
たまたま通りかかり、見出されたため、特別に全図展示が許可されたそうです。
その一件に懲りて、それからは大きな作品を作らなくなったかといえば、その逆で。
むしろ、さらに作品は巨大化していく傾向にありました。
特にたちが悪いのが、第9回日展に出展された、
《幾利壽當頌耶蘇十二使徒屏風》という作品です。
なぜ、この作品は縦長なのでしょうか
その理由は、この年の出品規則にありました。
「横六尺以内、縦は制限しない。」
確かに、ルールは守っていますが、
節操が無いというか、何と言いましょうか、
そこまでして大きな作品を作らなくても・・・と本人に言ってやりたいです(笑)。
なお、巨大と言えば、 《大世界の柵「坤-人類より神々へ」》も。
横は約13mで、全部で72枚の版木が使われているそうです。
もともとは、倉敷国際ホテルのロビー壁画として制作されたものでしたが、
大きすぎたため、結局2つに分け、2階と3階に飾られることになったのだとか。
・・・・・・・いい加減、大きく作りすぎるのやめましょうか。
また、作品だけでなく、自分自身のアピールも強かったようで。
棟方はその生涯で何冊も自伝を出版していたようです。
さらに、自画像も多く残しています。
それらの中には、こんな自画像もありました。
棟方といえば、「わだばゴッホになる」という発言が有名ですが、
自分がゴッホの《ひまわり》の花瓶になった絵を描いていたようです。
棟方にとって「ゴッホになる」というのは、こういうことだったのですね。
この展覧会を通じてもっとも実感したのは、
棟方志功のセルフプロデュースの巧さでした。
なるほど。の“メイキング・オブ・ムナカタ”とは、
「棟方が作ったもの」というような意味合いではなく、
「棟方という芸術家の作り方」というような意味合いだったのですね。
ちなみに。
そんな棟方自身によって作り上げられた棟方志功像は、
過去に幾度となく、ドラマ化や舞台化されているようです。
これまで棟方志功を演じた人物の中には、
渥美清や堺正章さん、西田敏行さんといったビッグネームも。
平成23年には、コロッケさんが『棟方志功物語』という公演を行っていたとのこと。
ロボット棟方志功とかやったのでしょうか。
それはちょっと観てみたかったです。