金沢の国立工芸館に行ってきました。
現在こちらで開催されているのは、
“ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―”という展覧会。
日本が世界に誇るコンテンツ「ポケモン」と、
日本が世界に誇るアート「工芸」を掛け合わせた前代未聞の展覧会です。
参加作家は、20名。
それぞれがポケモンをモチーフに、
完全オリジナルの新作を作成しています。
陶でリアルな生物を作る今井完眞さんや、
無数の植物のパーツを組み合わせて生物を作る彫金作家の吉田泰一郎さんといった、
いわゆるポケモン世代の若手作家だけが参加しているのかと思いきや。
国際的にも活躍する人気陶芸家・桑田卓郎さんや、
テキスタイルデザインの第一人者・須藤玲子さんも参加。
さらには、おそらくポケモンをやったことはないであろう、
「彫金」の人間国宝・桂盛仁さん(1944年生まれ)も参加していました。
まさに、工芸界のオールジャパン。
よくぞこれだけの人気実力ともに一流のメンバーを集めたものです。
その上、ポケモンをテーマに新作を作らせただなんて。
正直なところ、ポケモンに関してはゲームもアニメも、
まったく触れたことが無いのですが、そんな僕でも十分すぎるほどに楽しめました。
もちろんポケモンを知っていれば、さらに楽しめたことでしょう。
「ポケモン×工芸」とだけ聞くと、サブカル寄りの、
ゲーム好き、アニメ好きのための展覧会のように思えるかもしれませんが。
むしろ、その逆。
ゲーム好き、アニメ好きのツボも押さえつつ、
工芸の展覧会として真面目に作られていました。
キャプションできちんと工芸の技法や用語を説明していたり、
制作に使われる道具や素材、作家のアイディアノートが紹介されていたり。
工芸をちゃんと知ることができる、
工芸に興味が持てるような作りとなっていました。
絵画や現代アートに比べると、
少し地味な印象があるかもしれない工芸ですが。
間違いなくその印象を払拭する展覧会でした。
今まで自分が観てきた工芸の展覧会の中で、ベスト1と言っても過言ではありません。
金沢まで足を運んだ甲斐は大いにありました。
自在置物の満田晴穂さんや、
江戸小紋の小宮康義さんの作品も、もちろん印象的だったのですが。
個人的にMVPを決めるなら、
やはり立体木象嵌の若き天才・福田亨さんでしょうか。
一見すると、着色しているように思えますが、さにあらず。
実はこれらはすべて実際の木の色。
それら色違いのピースをパズルのように嵌め込んで作っているのです。
ピースとピースを寸分の狂いもなく嵌め込むのは、平面でも難しい技術なわけですが。
福田さんの場合は、それを立体で行っています。
その難易度は桁違い!
作品は可愛く見えますが、使われている技術は決して可愛くありません(←?)。
なお、アゲハ蝶のポケモンばかりに目が行きがちですが、板の表面にもご注目。
雨あがりの土を表現したとのことで、
ボコボコしている部分はすべて彫って制作されています。
その手間暇を考えるだけでも、頭がクラクラしてきました。
さらに、こちらの《Floor》という作品もポケモンの足元にご注目ください。
畳目はすべて手彫り。
そして、畳の縁は象嵌で完全再現されています。
どのように作られたのか、その理屈はわかりますが、
どうやったら実際に人間の手でできるのかは、理解が追い付きません。
まさに神業です。
そんな神様、福田様の真骨頂とも言うべき作品が、こちらの《飛翔》。
・・・・・・・・・・・・・・。
あまりにもスゴすぎて、言葉を失いました。
もしかしたら、本物の鳳凰を観る時よりも感動したかもしれません。
それから、もう一人印象に残っているのが、
あいちトリエンナーレ2019で作品に出逢って以来、
秘かにファンを自認している陶芸家の桝本佳子さんです。
桝本さんの作品のテーマは、
「器と装飾の、主と従という関係を壊すこと」。
まるで装飾に器がくっ付いているような、
ユーモラスな作品が多数展示されていました。
ちなみに。
出展作の多くが、ポケモンそのものがモチーフとなっていましたが、
中には、漆造形作家の田中信行さんやガラス作家の新實広記さんのように、
ポケモンに登場する技をモチーフにした作品もありました。
ポケモン好きなら、「あー、そうきたか!」ときっと楽しめるのでしょう。
人生で初めて、ポケモンをやってこなかったことを後悔しました。