現在、東京都写真美術館、愛称TOP MUSEUMでは、
約3万7千点に及ぶコレクションを紹介する不定期企画が開催されています。
その名も、“TOPコレクション セレンディピティ 日常のなかの予期せぬ素敵な発見”です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
キーワードは、「セレンディピティ」。
「偶然と才気によって、予期しない発見をすること」を意味する言葉です。
展示されている写真の多くに映し出されていたのは、ありふれた日常の何気ない一瞬ばかり。
36歳という若さでこの世を去った牛腸茂雄が日常で出会った風景だったり、
北井一夫さんが自分ん家でただ3つの柚子を撮影した写真だったり。
さらには、あの奈良美智さんがプライベートで撮影していた写真だったり。
ありふれた日常の何気ない一瞬、どころか。
ありふれているにもほどがある日常の、
何気ないにもほどがある一瞬が映し出されています。
いわゆる、シャッターチャンスではないだけに、
むしろ、何でこんな写真を撮ろうと思ったのだろうか、と逆に興味が湧きました。
例えば、ホンマタカシさんの《Tokyo and my Daughter》というシリーズ。
《Tokyo and my Daughter》というタイトルだけに、
ご自身の娘の姿を撮影したマジで何気ない写真シリーズかと思いきや、
被写体となっているのは、ホンマタカシさんのではなく、彼の友人の娘なのだとか。
家族写真ではなく、疑似家族写真。
『SPY×FAMILY』のような写真です。
なるほど。一口に何気ない写真といっても、
何気ない中にも、バリエーションがあるのですね。
そんな何気ない写真にあえて挑む写真家たちの中で、特に印象的だったのが山崎博さん。
彼はあえて自分の部屋の窓から見える景色、
しかも、構図も限定した上で、さまざまな表現に挑んでいるそうです。
そんな彼を家族は、「コタツ写真家」と称しているのだとか。
テレビ番組やSNS上の情報などのみで書かれた記事を「コタツ記事」と言いますが。
同じ「コタツ」でも、「コタツ写真家」の作品は、クリエイティビティに雲泥の差があります。
それからもう一人印象的だったのが、相川勝さん。
一見すると、映し出されているのは、何気ない風景に思えますが、
実はこれは、現実の光景ではなく、ゲームの世界の街の景色なのだそうです。
しかも、その景色をプロジェクターで投影することで、この画面に定着させているのだとか。
現実には無い光景であるはずなのに、
物質として定着すると、不思議と実在感が生まれていました。
現実は何なのか。真実は何処なのか。悩むほど遠ざかる。
まるで『ミッドナイトシャッフル』の歌詞を地でいくような作品でした。
ちなみに。
鑑賞者とTOPコレクションとの、
セレンディピティを何より大事にしている展覧会であるだけに。
写真作品を素通りしてしまわないような仕掛けも多々用意されています。
例えば、齋藤陽道さんの《感動》は、
写真集に掲載されているものをすべて掲載順に展示。
その量が多いので、原っぱのような場所でボーっと眺められるようになっています。
また、青い鳥のジョビンと犬のマギーという、
展覧会オリジナルキャラクターが会場のあちこちに出現。
展覧会の公式図録では彼らが、
まるで絵本のような語りをしながら、
作品の見どころを紹介してくれていました。
単純に読み物としても面白かったです。
そうそう。青い鳥と犬といえば、
先日一瞬だけ、Twitterのアイコンが、
青い鳥から犬に代わって話題となりましたね。
青い鳥のジョビンと犬のマギーは、それを予期していたのでしょうか。
偶然にしては出来すぎています。これもまたセレンディピティ。