佐竹家伝来の《三十六歌仙切》や、
古筆の名品とされる《寸松庵色紙》といった、
優れた日本古美術コレクションを誇る埼玉県の遠山記念館。
そんな遠山記念館でこの春開催されているのが、
“遠山記念館のアヴァンギャルドたち”という展覧会。
文字通り、遠山記念館のコレクションの中から、
アヴァンギャルドな作風の作品を紹介する展覧会です。
まず第一部で紹介されていたのは、『東洋美術の「逸品」たち』。
今現在では、「逸品」という言葉は、
“特別に優れたもの”的な意味合いで使われていますが、
もともとは、唐時代の画家の優劣を格付する上での言葉だったのだとか。
最高位が「神品」、中位が「妙品」、下位が「能品」、
そして、その規範を逸脱してしまったものを「逸品」と評していたそうです。
展覧会で紹介されていたのは、そういう意味での「逸品」たち。
美術界の亜流たち(?)によって生み出された作品の数々です。
今展で特にフィーチャーされていたのが、歌人の清水比庵。
彼はその作風と人柄から、「昭和の良寛」「今良寛」と慕われたそうです。
歌人として本格的に活動するのは、ほぼ60歳になってから。
もともとは司法官をしており、28歳で銀行員に転身、
さらに、電気工業界へと移り、48歳からは栃木県日光町(当時)の町長を務めました。
そんな比庵が88歳の時に描いたのが、こちらの《富士山》。
富士山と言われなければ、富士山とは思えません。
いや、言われたとて、富士山とは思えません。
ただ、富士山に見えなくても、滋味深いものがありました。
しみじみほのぼのする一枚です。
ちなみに、作品横に添えられたキャプションには、
「アイスクリームのようなユーモラスな富士の姿」とありました。
クリームで例えるなら、アイスクリームというよりは、生クリームのほうがまだ近いような。
なお、第一部では、こんな作品も紹介されていました。
松平不昧による《達磨図自画賛》です。
右下に描かれているのは、達磨の後姿とのこと。
言われてみれば、そう見えなくなくもありません。
日本一シンプルな達磨の絵でした。
続く第2部で紹介されていたのは、3点の新収蔵品。
どれも20世紀美術です。
そのうちの1点は、ピカソの《女性頭部》。
フランソワーズ・ジローをモデルに描いた作品です。
それから、イタリアの抽象画家ジュゼッペ・カポグロッシによる平面作品と、
同じくイタリアの前衛芸術家ルーチョ・フォンタナによる珍しい立体作品が紹介されていました。
(その2点に関しては、大人の事情で写真を掲載することができません。あしからず。)
なお、フォンタナの作品は美術館の展示室ではなく、
遠山記念館ご自慢の日本庭園の中央に設置されています。
日本庭園にフォンタナの立体作品がある光景は、まさにアヴァンギャルド!
本展の最大の見どころと言えましょう。
さて、遠山記念館で20世紀美術作品を観るのは実に新鮮な体験でしたが、
本展ではさらに、普段あまり公開されていないコレクションも紹介されていました。
それは、北メソポタミアのテラコッタ像のコレクション。
実は、遠山記念館の収蔵品の中には、
北メソポタミアのテラコッタ像が230点ほど含まれているとのこと。
これは国内最大となるコレクションなのだそうです。
北メソポタミアのテラコッタ像は、
日本の土偶とはまた全然違う造形でした。
特に印象的だったのが、女神像の顔の表現。
まさに異形。
まさにアヴァンギャルド。
どの像もサイコホラー漫画に出てくるシリアルキラーや、
デスゲームの主催者が被っているマスクっぽい顔をしています。
ただ、1点だけ、わりと普通の女神像もありました。
ちゃんと普通に作ろうと思えば、作れるんじゃん。