今年の3月1日に広島県大竹市にオープンした話題の美術館、下瀬美術館に行ってきました。
こちらは、丸井産業株式会社の代表取締役である下瀬ゆみ子さんが、
先代から受け継ぎながら形成してきたコレクションを保存・公開する美術館です。
美術館のコンセプトは、「アートの中でアートを観る。」。
すなわち、建物そのものが一つのアートということです。
設計したのは、“建築界のノーベル賞”こと、
プリツカー賞を2014年に受賞した建築家の坂茂さん。
柱と梁が一体となったアーティスティックなエントランスは、
受付だけでなく、ミュージアムショップやカフェも兼ねています。
このエントランスだけでも充分にインパクトがありますが、
下瀬美術館の建物の最大の特徴が、水盤に浮かぶ展示室。
これらの水に浮かぶ展示室は、全部で8つあり、
それぞれ異なる色のカラーガラスで覆われています。
ちなみに。
屋上にある望洋テラスから眺めると、こんな感じに。
瀬戸内海の島々との取り合わせを楽しむことができます。
ちなみにちなみに。
夜になると、水に浮かぶ展示室はこんな感じに。
それぞれが光り輝き、幻想的な光景となります。
ちょっとしたエレクトリカルパレードのようです(←?)。
さて、この8つの水に浮かぶ展示室は、
ただ、色とりどりというだけではありません。
なんと、動くのです!
とても大事なことなので、念のためもう一回言っておきます。
この展示室は、なんと動くのです!
通常は固定されているようですが、水盤に水を溜めると、
これらの8つの展示室は船のように浮力で浮かぶ、動かすことができるのだとか。
通路となる部分も取り外しが可能なため、
8つの展示室を動かし、レイアウトを変えることができるのだそうです。
世の中にたくさんの美術館がありますが、
展示室自体が動かせる美術館はおそらく、下瀬美術館だけ。
唯一無二の美術館です。
そんな下瀬美術館で現在開催されているのが、
“おひなさまと近代美術―丸平の人形からガレ、マティスまで”という展覧会。
お披露目を兼ねて、下瀬美術館コレクションを満遍なく紹介する展示となっています。
まず、動かない方の展示室(?)で紹介されていたのは、丸平の人形の数々。
丸平こと丸平大木人形店は、創業250年を誇る京都の老舗人形店。
天皇家や旧家、さらには、三菱の創業者・岩崎家や、
「越後屋」でお馴染みの三井家も御用達の人形店です。
そんなセレブに愛された丸平に、下瀬家も人形を特注していたとのこと。
今展では雛人形を中心に、下瀬家の丸平コレクションが一挙蔵出しされていました。
静嘉堂文庫美術館や三井記念美術館で、
丸平大木人形店の人形は何度も目にしていますが。
下瀬美術館のものは、静嘉堂や三井記念のと比べて、
全体的に丸顔で顔のパーツが中心にキュッと集まっている印象を受けました。
ちなみに。
展示されていた人形の中には、桃太郎の人形も。
犬と猿はまだわかりますが、
キジも腰に刀を差していました。
どうやって刀を持つのでしょう?
さて、たっぷりと丸木の人形たちを観た後は、いよいよ水に浮かぶ展示室へ。
固定されているので、当たり前なのですが、
歩いたら、足がグラつくような感じは一切ありませんでした。
また、カラフルな外観とは裏腹に、
内部は白一色で統一されているため、
鑑賞時は美術作品に集中できるようになっていました。
下瀬美術館コレクションの中核をなすのは、エミール・ガレ。
光るものから、光らないもの(←?)まで、
さまざまなタイプのガレ作品が展示されていました。
中でも特に印象的だったのが、ガレ後期の作品《ハートの涙(ケマンソウ)》。
いい意味で、ガレっぽくない、
昭和レトロ感のあるファンシーな作品です。
実際にはそんなことはしませんが、
もし、表面を舐めたら、きっと甘い気がします。
たぶんサクマのいちごみるく味。
なお、美術館の外には・・・・・
ガレの作品のモチーフとなった植物も植えられた、
「エミール・ガレの庭」という名の庭園がありました。
ガレの作品とともに併せて楽しむことができますよ。
また、下瀬美術館コレクションは、
ガレの作品だけでなく、西洋美術や日本美術も充実しています。
意外なところでは、岡本太郎や、
四谷シモンさんの作品も展示されていました。
さて、紹介されていたコレクション作品の中で、
注目したいのが、マティスの《青いチュチュの踊り子》です。
こちらは、70代のマティスが、
大手術を受けた翌年に描いた油彩画とのこと。
この辺りで、マティスは切り絵にシフトするので、
油彩画としてはほぼ最後期の作品ということになります。
後遺症が残っているとは思えないほど、
のびのびと心地よい印象を受ける作品でした。
それからもう一点注目したいのが、
佐伯祐三による《少年時代のジャック・ブナバンチュール》。
こちらは、佐伯が最初にパリに渡った際に描いたものなのだそう。
少年とは思えない圧で、こっちを見てくるので、思わず目を逸らしてしまいました。
『シャイニング』のジャック・ニコルソンくらい圧がありました。
広島県にあるため、東京から気軽には行けませんが、
動く展示室が動いた頃に、また必ず足を運びたいと思います。
こんな魅力的な美術館があるだなんて!
今、広島県民、中国地方の方に軽く嫉妬しています。