毎年春の中村屋サロン美術館の恒例企画、“中村屋サロン アーティストリレー”。
出展作家自身が次の作家を指名することで、リレー形式で展覧会を繋いでいく。
いうなれば、『テレフォンショッキング』スタイルの展覧会です。
昨年、展覧会が開催された富田菜摘さんから、
そのバトンを受け取ったのは、彫刻家の三宅一樹さん。
“中村屋サロン アーティストリレー”としては5回目となる、
“三宅一樹展「拝啓、碌山殿。」”は、5月28日まで開催されています。
これまでに幾度となく、三宅一樹さんの作品を、
美術館やギャラリーなどで目にする機会はありましたが、
意外にも、美術館での個展は今回が初めてとのこと。
それゆえ、公開されるのは卒展に出展した年以来となるという、
卒業制作にして、三宅さんの出世作、《艶詞見返り》も特別に出展されていました。
卒業制作にして、このクオリティ!
ベテランの仏師が作った作品と言われたら、
おそらく疑うことなく、そう信じてしまうことでしょう。
さらに、三宅さんが14歳の時に、
美術の時間で作ったという彫刻作品も出展されていました。
言うまでもなく、初公開です。
(↑今回の展覧会のために鋳造したそうです)
卒業制作でも十分に驚きましたが。
14歳の時点で、このクオリティって!
早熟すぎるにもほどがあります。
さてさて、初期の作品だけでなく、
三宅さんの代表的なシリーズももちろん出展されていました。
例えば、こちらは「素脚詞(すあしことば)」シリーズ。
目に飛び込んできた瞬間に、
純粋に美しい脚だと思いました(←決してフェチ的な意味じゃなくて!)。
造形もさることながら、ポージングも含めて。
頭では木製とわかっているものの、
観れば観るほど、人間の女性の足に思えてきます。
それ故、その艶やかな脚をしばらく眺めていると、
思わず触ってみたくなる衝動に駆られること必至(←決して変態的な意味じゃなくて!)。
魔性の作品シリーズです。
また例えば、こちらは「YOGA」シリーズ。
決して、奇をてらった作品シリーズでなく、
実際に、三宅さんはヨガをやっているそうで。
ヨガで身に付けた身体のバランス、
重心の置き方などを作品に反映させているそうです。
そんな「YOGA」シリーズの最新作が、
こちらの《螺旋軸》と《化現軸》という対となる連作。
ヨガに実際にあるポーズを基としつつも、
足首には人間では不可能なねじりを加えているのだとか。
つまり、ただのヨガのポーズの写しでなく、
思想のようなものを表現した、彫刻ならではの作品です。
また、保護猫を飼っているという三宅さんは、
猫をモチーフにした作品も多く制作しています。
猫としての可愛さに目が行ってしまうので、
そのスゴさに素通りしそうになってしまうのですが。
例えば、こちらの《聖猫櫃―バンダジB》という作品。
櫃の下にある木の板にご注目ください。
実はこちらの作品は、一木造り。
木の板に作品が乗っているわけではなく、
木の塊から、櫃とその上にある猫を彫り出しているのです。
もちろん、金具に見える部分も木製です。
それ以上に驚かされたのが、こちらの《Holy Cat―聖猫高脚杯》。
こちらもなんと一木造りです。
杯の脚の部分に穴が開いていますが、
これらもすべて彫って中を空洞にしたのだとか。
さらに、猫のしっぽにもご注目くださいませ。
しっぽの部分だけ後から付け足したわけではありません。
つまり、もともとの木の塊は、高脚杯の直径よりも太かったということ。
その塊から、何をどうやったら、この形だけを残すことができるのか??
想像すらつきません。
スゴいという感情を通り越して、
もはや畏怖や畏敬の念すら感じる作品でした。
他にも、御神木を素材にしたシリーズや、
板の一部を究極に薄く彫り、後ろから照明を当て、月のある情景を再現した作品など、
まだまだ紹介したい作品はありますが、
今展のやはりハイライトと言うべき作品が、こちらです↓
・・・・・って、あれ?これって、
中村屋サロン美術館に常設されている作品では??
いえいえ、それはこちらの荻原守衛(碌山)の《坑夫》。
先ほどのは、今展のために制作された、
三宅さんの最新作《碌山研究―小坑夫》です。
三宅さんは、敬愛する荻原の真髄を理解するべく、
美術館へ何度も足を運び、さまざまな角度からデッサンしたそうで。
そのデッサンを基に、約2ヶ月をかけて、
この《碌山研究―小坑夫》を完成させたのだそうです。
どこからどう見ても、どの角度から見ても、荻原守衛(碌山)の《坑夫》です。
かといって、ただの完コピ作品というわけではありません。
《坑夫》のエッセンスを取り込みつつも、
ちゃんと三宅一樹さん版の《坑夫》になっていました。
ものまね芸人が歌うのと、カバー曲の違いといいましょうか。
まぁそもそも、ブロンズ製と木製と、素材からして違いますしね。
毎年、アーティストリレーを楽しみにしていますが、
個人的には、今回の三宅一樹さんの展覧会が暫定1位!
というか、木彫の作家の展覧会としても暫定1位かも。
これほどまでに、木を素材として知り尽くしている、
使いこなしている彫刻家は、そうそういない気がします。
名は体を表す。
三宅一樹。まさに、樹の申し子です。