今年2023年は、日本を代表するファッション・イラストレーターとして、
特に女性層から絶大な人気を博した森本美由紀の没後10年となる節目の年。
それを記念して、現在、弥生美術館では、
“伝説のファッション・イラストレーター 森本美由紀展”が開催されています。
もし、森本美由紀の名を知らなかったとしても、
彼女が独自のスタイルで描いた女性像は一度ならずとも目にしたことがあるはず。
80年代から近年まで、『Olive』や『25ans』、
『VOGUE』といった女性誌で主に活躍されていました。
さらに、ファッションの分野だけでなく、
ピチカート・ファイヴのベストアルバムのジャケットや、
マークスの手帳とのコラボなど、多方面で活躍。
バブル期に制作された、いわゆる「ホイチョイ・プロダクション三部作」の一つ、
『波の数だけ抱きしめて』のポスターのイラストを手掛けたのも、森本美由紀です。
カラーの作品も多く描いていますが、
彼女の代名詞ともいうべきは、やはりモノクロのスタイル画。
とても30年前に描かれたものとは思えないくらい、
現代の感覚からしても十分にオシャレな画風なため、
フランス製のインクとで描かれているのかと思いきや(←?)。
なんと墨と筆で描かれているとのこと。
それを知った上でマジマジと観てみても、にわかには信じられません。
これらが墨で描かれているだなんて!
無駄のないシンプルな線で描かれていながらも、
簡素や地味な印象はまったく無く、むしろ華があります。
墨で描かれた作品は、これまで山ほど目にしてきましたが。
どの画家にも似ていない、どこにも属さない唯一無二の作風です。
ファッション・イラストレーターという域を超え、
現代の水墨画家として評価すべき人物である気がしました。
森本美由紀の世代の方やファンはもちろん、
日本美術好きの人にも是非チェック頂きたい展覧会です。
ちなみに。
展覧会では、森本美由紀が墨と筆で描くスタイルに辿り着く前の作品も紹介されています。
デビュー当初は、フランスはフランスでも、
『タンタンの冒険』のようなタッチのイラストを描いていたのですね。
で、こちらは独自のスタイルを確立する直前の作品群です。
マティスのドローイングを彷彿とさせるほどのシンプルさ。
右側の女性は、なんとなく小西真奈美に似ています。
また、墨と筆と言えば、こんなものも紹介されていました。
彼女の手にかかれば、筆記体もオシャレな仕上がりに。
墨で書かれているのに、なぜか“和”を感じず、“フランスみ”を感じてしまいます。
そうそう、展覧会では、幼い頃の森本美由紀の絵も紹介されていました。
岡山県津山市で幼少期を過ごした彼女。
さすがにその頃の絵は、フランスっぽくはありませんでした。
その頃に書かれた書も、やはり普通の書。
森本美由紀は決して、生まれた時から森本美由紀ではなかったのですね。
一朝一夕では、独自のスタイルは確立できない。
そんなことを思い知らされる展覧会でした。