現在、横浜のそごう美術館で開催されているのは、
“霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展”という展覧会。
人気、実力を共に兼ね備えた彫刻界のトップランナー、
大森暁生さん(1973~)の待望となる美術館での大規模展覧会です。
出展作品は、約100点!
大学の卒業制作の作品《カラスの舟は昇華する》といった初期の貴重な作品から、
鏡の効果を最大限に活かした代表作「In the flame」シリーズ、
さらには、10年の歳月をかけた大プロジェクトで、
今年10月に讃岐國分寺に奉納予定の大日如来坐像の一部まで。
彫刻家・大森暁生さんの全貌が余すことなく紹介された展覧会です。
展覧会タイトルに、“霊気を彫り出す”とありますが、
決して、心霊的・オカルト的な意味合いではありません。
大森さんのいう「霊気」とは「気配」のこと。
大森さん曰く、作品を彫り進めていくと、ある時から、
何かの気配に「誰っ?」と、本人ながらドキッとするのだそうです。
確かに。
大森さんが生み出した作品からは気配が漂ってきます。
それは、息遣いのようだったり、体温のようだったり。
今にも動き出しそう、というよりも、
鑑賞者に観られているうちは、彫刻に徹しようと、
あえて動きを止めているようにすら感じられます。
実在の動物をモチーフにした作品に、
そのような“気配”が感じられるのは、百歩譲ってまだ理解できるとして。
何よりも不思議なのは・・・・・
ユニコーンのような角が生えたゾウや、
全身から棘のようなものが生えたゴリラなど、
実在しない生き物ですら、“気配”が感じられること。
“気配”どころか、実際にこういう生き物がいて、
まるで、その剝製を観ているかのような、妙な説得力があるのです。
なお、大森さんの妙な説得力は、
動物モチーフの作品以外でも存分に発揮されていました。
こちらは、架空の薬をモチーフにした「薬瓶」シリーズの作品群。
キリストの血を固めた錠剤とか、
超人的な聴力を手に入れられる薬とか、
キャプションの解説は、絶妙にうさん臭いのですが。
造形としてカッコイイので、妙に納得してしまうものがあるのです。
イケメンが演じていれば、どんなあり得ない設定のキャラクターでも受け入れられる的な?
今回出展されていた数々の作品の中で、
個人的に一番印象に残ったのは、「光の肖像」シリーズ。
こちらのシリーズは、熊本市動物愛護センターを取材し、
そこで保護されている犬や猫達の姿をありのままに彫刻として記録したもの。
決して、ただ可愛いだけじゃなく。
病気の犬や隅っこでうずくまる犬など、
人間のせいでこうなってしまったのであろう、
リアルな姿が映し出されていたことに、胸が締め付けられる思いがしました。
とはいえ、苦しいだけでなく、希望もあり。
《光の肖像-8分の2-》のあどけない寝姿に救われました。
他に引き取り手がいないなら、
持って帰りたいくらいの愛らしさ。
この子を起こしてしまわないように、
自然と息を止め、足音を消して鑑賞していました。
“気配”を感じるがゆえに、鑑賞者の自分が“気配”を消す。
こんな鑑賞体験は、きっと後にも先にもこれだけでしょう。