今年2023年は、線描の名手と謳われた日本画家、
小林古径(1883~1957)の生誕140年にあたる節目の年。
それを記念して、現在、山種美術館で開催されているのが、
“小林古径と速水御舟 ―画壇を揺るがした二人の天才―”という特別展です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
小林古径と、山種美術館にもっとも関わりの深い日本画家の一人である速水御舟。
近代日本画の歴史に大きな足跡を残した2人にスポットを当てた展覧会です。
実は過去に、古径と御舟の組み合わせで2人展が開催されたことはなかったのだとか
まぁ、言われてみれば確かに、この2人には特に接点はないような気がします。
と思いきや、11歳差ながら、2人はお互いをリスペクトし、
しばしば、画室を訪れるほどの関係性だったのだそうです。
御舟は古径に対して、「自分の信じた道を真直に歩んでいく」と称賛していたそう。
一方、古径も年下の御舟に対して、こんな言葉を残しています。
「あれほど芸術に熱烈だった友のことを想うと尊敬の念にかられる」と。
さて、そんな相思相愛(?)の2人に迫る今展には、
山種美術館が所蔵する古径作品すべて展示されています。
その中には、ハンサムなあの《猫》も。
小林古径《猫》 1946(昭和21)年 紙本・彩色 山種美術館
さらに、道成寺伝説を題材にした古径の代表作、
《清姫》は5年ぶりに全8面が一挙公開されています。
小林古径《清姫》のうち「日高川」 1930(昭和5)年 紙本・彩色 山種美術館
それに加えて、東京国立近代美術館が所蔵する《極楽井》も特別に出展されていました。
小林古径《極楽井》 1912(大正元)年 絹本・彩色 東京国立近代美術館
(注:展示は 5/20~6/18)
ただし、《極楽井》の展示は前期のみ。
後期には、同じく古径の代表作、《出湯》が出展されるそうですよ。
小林古径《出湯》 1921(大正10)年 絹本・彩色 東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
(注:展示は6/27~7/17)
さらにさらに、古径と御舟の関係性の深さを示すものとして、
個人蔵の貴重な古径が描いた御舟のデスマスクも出展されていました。
小林古径《速水御舟(デスマスク)》 1935(昭和10)年 紙本・鉛筆、墨 個人蔵
友の死に顔を描かずにはいられない。
画家の業のようなものがひしひしと伝わってきました。
もちろん、「御舟美術館」と称される山種美術館だけに、
展覧会では、御舟の名品の数々が惜しげもなく公開されています。
それらの中には、御舟の最高傑作と名高い重要文化財の《炎舞》や、
重要文化財 速水御舟《炎舞》 1925(大正14)年 絹本・彩色 山種美術館
御舟が「この絵だけは面白い絵だと後世いってくれるだろう」と語った自信作《翠苔緑芝》も。
速水御舟《翠苔緑芝》 1928(昭和3)年 紙本金地・彩色 山種美術館
実に見ごたえのある・・・・・いや、
見ごたえしかない展覧会となっていました。
古径ファンも御舟ファンも、どちらにもたまらない展覧会です。
なお、今回の展覧会で、個人的に印象深かったのが、
椿や鶴など同じモチーフで、それぞれが描いた作品を観比べられたこと。
ちゃんと観れば、どちらが古径か御舟かはわかりましたが、
パッと見た感じだけでは、同じ画家の作品のように思えました。
それくらい、古径と御舟の2人の作風には何か通ずるものがあるのでしょう。
それを知れたのが、今展の一番の収穫でした。
ちなみに。
出展作品の中で特に味わい深かったのが、古径の《猿曳》。
余白の感じといい、ポージングといい、
全体的に何とも言えない哀愁が漂っていました。
たぶんですが、お客さんは少なさそう。
拍手もおそらくまばらです。
それからもう一点味わい深かったのが、古径による《西行法師》。
西行法師が青いスパッツみたいなのを履いているのも気になるところですが。
それ以上に気になるのが、画面左にいる人物。
子どもとはいえ、小さいにもほどがあります。
ホビットくらいのサイズです。
なお、その子供の手元にご注目。
西行法師が源頼朝に招かれた際に拝領し、
翌日惜しげもなく門前の子どもに与えたという銀の猫が描かれています。
西行法師と比べたら、どんだけ小さいんだ?!
ガチャガチャくらいのサイズです。
┃会期:2023年5月20日(土)~7月17日(月・祝)
┃会場:山種美術館
┃https://www.yamatane-museum.jp/exh/2023/kokei.html