惜しまれつつ、昨年6月1日、写真の日に、
93歳でこの世を去った日本写真界の巨匠・田沼武能さん。
その逝去後初となる大規模な回顧展、
“田沼武能 人間讃歌”が東京都写真美術館で開催されています。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております)
戦後すぐに、写真家・木村伊兵衛に師事し、
『芸術新潮』の嘱託写真家としてキャリアを積んだ田沼武能さん。
1965年にはあの『LIFE』誌と写真家契約を結びました。
まさに、日本を代表する報道写真家です。
(会場には、その時の腕章も展示されていました)
展覧会は全3章で構成されています。
まず第1章は「戦後の子どもたち」。
終戦後の東京下町に住む子供たちの姿を写した写真の数々が紹介されています。
「戦後の子どもたち」という言葉だけ聞くと、
『火垂るの墓』のような暗い印象を受けるかもしれませんが。
確かに、戦争の悲惨はありながらも、それ以上に、
写真からは子どもの無邪気さ・純粋さ・可愛さが伝わってきます。
なお、個人的に一番印象に残っているのは、
右上のおじいちゃんと孫が写されたこちらの写真です↓
何か看板のようなものを熱心に見つめるおじいちゃんと孫。
キャプションを見ると、こんなタイトルが付けられていました。
この祖父にして、この孫あり。
こうやって性質は隔世遺伝するのでしょうね。
『クレヨンしんちゃん』を地で行くような祖父と孫でした。
続く第2章は、「人間万歳」。
「人間大好き人間」を自称していたという田沼さん。
1972年からはライフワークとして、
時に、黒柳徹子さんに私費で同行取材を行うなど、
子どもたちを中心に世界の人々を撮影して巡っていたそうです。
戦後の日本の子どもたちを撮影した写真もそうでしたが、
彼が撮影した世界中の子どもからも、無邪気さ・純粋さ・可愛さが伝わってきました。
時代が変わっても、国が違っても、
人間の本質は変わらないのかもしれません。
また、写真であるにも関わらず、彼の写真からは、
不思議と、その前後の様子も伝わってくるようでした。
まるでショート動画を観ているような。
『さんまのSUPERからくりTV』の問題を観ているような。
「その後どういう事態が生じたか?」
そんな問題文テロップが付いていても違和感はないでしょう(←?)。
ちなみに。
田沼さんは、その生涯で130を超える国と地域に足を運んだのだそう。
彼が70~90年代に海外で撮影した写真を観ていたら、
なんとなく『なるほど!ザ・ワールド』を連想してしまいました。
それゆえ、白塗り(?)の人(写真右)を観ていたら・・・・・
なんとなくトランプマンが頭をよぎってしまいました。
さてさて、展覧会を締めくくる第3章は、「ふるさと武蔵野」。
美術館では初公開となる『武蔵野』シリーズが紹介されています。
「ふるさと武蔵野」とはいうものの、田沼自身は東浅草生まれ。
それゆえに、いわゆる“ふるさと”に憧れ続けていたのだとか。
そんな田沼さんがふるさとの原風景を見出しのが、武蔵野の風景でした。
かつて、『風景写真=京都』という時代があったそうですが、田沼さんはそこに固執せず。
ごくありふれた武蔵野の風景に魅力を感じ、生涯にわたって撮影を続けていたそうです。
展覧会のラストに飾られていたのは、
亡くなった2022年の1月に撮影された写真。
最晩年の作品と知った上で観ているからでしょうか、
まさに、最終回のラストカット、ラストシーンといった印象の一枚でした。
この後すぐに、下から上に向かって、エンドロールが流れてきそうな気がしました。
美術館で写真展を観たというよりは、
上質なロードムービー、ドキュメンタリー映画を1本観たような。
グッと胸に迫るものがある展覧会でした。