今年めでたく開館25周年を迎えた茅ケ崎市美術館。
それを記念して現在開催されているのが、
“イギリス風景画と国木田独歩”という展覧会です。
(注:展示室内は一部撮影可。写真撮影は、特別に許可を得ております。)
ん?イギリスと茅ヶ崎に何の関係が??
というか、国木田独歩って『武蔵野』の人だよね??
そう、頭の上に「?マーク」がいくつも浮かんでしまった方も少なくないでしょう。
順を追って説明させて頂きます。
まず、この展覧会の主人公は、国木田独歩(1871~1908)。
『文豪ストレイドッグス』にも登場する明治時代を代表する小説家です。
彼は「東洋一のサナトリウム」と謳われた南湖院で、36歳の短い生涯を終えました。
その南湖院があった場所こそが、茅ケ崎。
つまり、茅ケ崎は独歩の終焉の地であるのです。
さて、そんな“茅ケ崎ゆかりの文豪”独歩に、
大きな影響を与えたのが、イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワース。
自然を愛し、自然と共に暮らした彼は、
自然を讃える詩を次々と発表し、人気を博しました。
そんなワーズワースの詩と思想に心酔した独歩は、
実際に武蔵野を散策し、その情景とそこで出会った人々を克明に書きました。
それが、代表作の『武蔵野』だったというわけです。
さてさて、ワーズワースが活躍した18世紀末から19世紀のイギリスにおいて、
自然をテーマにした作品を生み出したのは、文学者だけではありませんでした。
そう、ターナーやコンスタブルといったイギリス風景画の巨匠たちです。
今展では、日本屈指のイギリス美術コレクションを有する美術館、
福島県の郡山市美術館から選りすぐられた珠玉のイギリス風景画が紹介されています。
その中にはもちろん、ターナーやコンスタブルの作品も。
さらに、肖像画の巨匠としてしられるゲインズボロ(ゲインズバラ)による風景画もありました。
他にも、日本ではあまり知名度はないですが、
リチャード・ウィルソンやサミュエル・パーマーといった、
イギリス風景画を代表する画家の作品が多数取り揃えられています。
マティス展にはじまり、ブルターニュ展や南仏展など、
やたらとフランス絵画づいている今年2023年の美術館界隈ということもあり、
こうしてまとまってイギリス風景画の名品が観られるのは、なんとも新鮮でした。
確かに、ターナーとコンスタブルの2大巨匠の作品は別格でしたが、
ノリッジ派と呼ばれる風景画家のグループの父とされるジョン・クロームや、
ターナーもその才能を高く評価したという27歳の夭逝の画家トマス・ガーディンなど、
“はじめまして”ながら、印象に残る風景画家が数多くいました。
そうした出逢いがあっただけでも、
茅ケ崎市美術館に足を運んだ甲斐があったというものです。
ちなみに。
個人的に一番印象に残っているのは、
こちらの《フレッシュウォーター・ベイ》という作品。
他の風景画と違って、この作品だけこってりとした印象を受けました。
江戸時代に初めて日本で描かれた油彩画、
例えば、司馬江漢や亜欧堂田善の油彩画の雰囲気にどこか通ずるような。
なお、作者の名前はジョン・マーティンとのこと。
あれ?その名前をごく最近聞いたような・・・と思ったら、
上野の森美術館で開催中の“恐竜図鑑展”で、彼の絵を観たのでした。
イグアノドンの化石を発掘した医師に頼まれて、初期のイグアノドンを描いた人物です。
なお、今展では、イギリス風景画だけでなく、
その影響を受けた日本人画家による風景画の数々も紹介されています。
それまでの日本での風景画は、浮世絵の名所絵に代表されるように、
名所を前面に押し出したいわゆる観光地のポストカードのようなものが多かったのですが。
明治以降になると、イギリス風景画のように、
特に画になるわけではない、何気ない自然を描く日本人画家が現れます。
まさに、美術界の国木田独歩ですね。
文学と美術と、ジャンルは違えど、
この時代の芸術家たちの自然観が知れて、興味深かったです。
ちなみに。
今展で紹介された日本近代洋画の数々は、
すべて府中市美術館のコレクションとのこと。
府中市美術館のある府中は、まさに武蔵野。
湘南ながら、ちゃんと武蔵野を感じられる展覧会でした。