今年2023年に開館45周年を迎えた、
「ミレーの美術館」こと山梨県立美術館。
それを記念して現在開催されているのが、
“ミレーと4人の現代作家たち”という展覧会。
山梨県立美術館としては、2014年以来、
実に9年ぶりとなるミレーに関する特別展です。
今展の最大の特徴は、ミレーの作品だけを紹介するだけではなく、
また、一般的な展覧会のように、同時代の作家の作品と併せて展示するのでもなく、
現在活躍中の4人の日本人現代作家の作品と併せて紹介していること。
ミレーの作風が落ち着きのある大人しいものなので、
展覧会全体も大人しいトーンかと思いきや・・・・・むしろその逆でした!
会場に入っていきなり目に飛び込んできたのが、こちらの光景です。
え?これがミレー展??
あまりにも想定外の光景すぎて、
何が起きたのかと、一瞬フリーズしてしまいました。
こちらは、ファッションデザイナーであり作家でもある、
writtenafterwardsの山縣良和さんによるインスタレーション作品です。
実は、ミレーがパリからバルビゾン村に移り住んだのは、
19世紀に猛威を振るったコレラによるパンデミックがきっかけだったそう。
そして、山縣さんもコロナをきっかけに、
山梨県の富士吉田市と長崎県の小値賀島を拠点を移したそうで。
このインスタレーション作品には、
それらの土地で出逢った人の作品や古道具、
土地からインスピレーションを受けて制作した山縣さんの服などが、
まるでパッチワークのように配置されています。
さらに、ミレーの絵画もインスタレーション作品の一部に。
雑然とした空間に展示されているため、
レプリカのように感じられるかもしれませんが、もちろん本物です。
ちなみに。
ミレーの《眠れるお針子》という作品は・・・・・
大量の糸巻と併せて展示されていました。
今後もこのまま展示して欲しいと切に願うほどに、実にしっくりくる取り合わせ。
この光景が観られただけでも、山梨県立美術館を訪れた甲斐がありました。
と、山縣さんのインスタレーション作品の時点で、
早くもすっかり大満足な気分になってしまったわけですが。
続く淺井裕介さんのインスタレーション作品は、さらに想像の斜め上を行くものでした。
《種をまく人》は発表当時、人々に、
「まるで土で描かれているようだ」と評されたのだとか。
そんな《種をまく人》を取り囲むように、
壁一面に淺井さんの絵が描かれていました。
実際に淺井さんがこの場所で、直接壁に描いたという絵が、
あまりにも迫力がありすぎて、なおかつ、動きが感じられるので、
「《種をまく人》は無事か?環境活動家の仕業か?」と一瞬ヒヤッとしました。
(もちろん、《種をまく人》に泥はかかっていませんので、ご心配なく!)
ちなみに。
この絵に使われているのは絵の具ではなく。
山梨県内の神社や農地、美術館の敷地内で採取された土。
《種をまく人》とは違って、淺井さんの絵はまさに土で描かれているのです。
3人目に登場するのは、丸山純子さん。
身の回りのものを素材として用いて制作するアーティストです。
一見すると、ミレーと特に関係ない気もしましたが。
ミレーは農民の生活を通じて、自然のサイクルを描いたアーティスト。
家屋に使用されていた木材や、使用済みのビニール袋など、
身の回りのものを素材に、新たな息吹を吹き込む丸山さんの作品にも、、
自然のサイクルや自然の循環といった要素が見て取れます。
(要は、なんか通ずるものがあるってこと)
なお、壁には丸山さんによる絵画も展示されていました。
これらは、食事を終えた後に発生する廃油を用いて描かれているのだそう。
その素材も個性的ですが、タイトルもどれも個性的でした。
こちらの作品のタイトルは・・・・・
《それは犯罪として認められませんね》とのこと。
一体どういうシチュエーションなのでしょう??
さてさて、展覧会のラストを飾るのは、
映像作家の志村信裕さんによる映像作品。
2019年に発表された《Nostalsia, Amnesia》です。
映像では、成田空港の建設による立ち退きに抵抗しながら農業を営む男性の姿と、
人口が年々減っているフランス・バスク地方の羊飼いたちの様子が交互に映し出されます。
ミレーも志村さんもどちらも、農民や羊飼いの姿を描いているわけですが、
改めて、こうして2人の作品を観比べてみると、良くも悪くもミレーの絵画は、
特に社会問題に目を向けて描いているのではないことに気づかされました。
「労働=尊い」というスタンスで描いているような。
ただ、ミレーが生きた時代と違って、21世紀の現在は、
労働についての人々の考え方も大きく変わっているわけで。
この先さらに100年、200年と経つと、
未来の人々は、ミレーの農民画をどのように感じるのだろうか。
志村さんの作品を通じて、そんなことにまで想いを馳せてしまいました。
山梨県立美術館は「ミレーの美術館」なので、
ミレーを全面的に押し出す展覧会を開催するものだとばかり、
思い込んでいましたが、いい意味で裏切られました。
脇役とまでは言いませんが、ミレーは準主役。
主役はあくまで、4人の現代作家でした。
ここまでやり切っていたのは、アッパレとしか言いようがありません。