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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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杉本博司 本歌取り 東下り

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昨年の秋、姫路市立美術館を舞台に、

“杉本博司 本歌取り―日本文化の伝承と飛翔という展覧会が開催されました。

 

 

 

そして、今年の秋は、渋谷区立松濤美術館を舞台に、

“杉本博司 本歌取り 東下り”という展覧会が開催されています。

 

 

 

どちらもタイトルに“杉本博司 本歌取り”とあるので、

単純に東に巡回してきた展覧展だと思い込んでいたのですが。

なんと、展示作品はほぼ入れ替わっていました!

巡回展ではなく、新作の続編といったところです。

『マトリックス』でいえば(←?)、

『リローデッド』と『レボリューションズ』くらいに別物でした。

 

まず地下1階の展示室で目を惹くのが、新作の《富士山図屏風》

東下り、つまり、関西から関東へと行く際に、

必ず目にする富士山をモチーフにした作品です。

 

杉本博司 富士山図屏風 2023 ピグメント・プリント 作家蔵

 

 

葛飾北斎の《冨嶽三十六景 凱風快晴》を本歌取りしたもので、

赤富士が描かれたとされる山梨県三ツ山から実際に撮影されたのだそう。

富士山を写した写真は、世の中に数多くありますが。

どの富士山写真よりも雄大で、

かつ、悠久の時のようなものも感じられました。

この新作を観るためだけにでも、展覧会に足を運ぶ価値はあります。

 

なお、そんな《富士山図屏風》の前に展示されていたのが、

室町時代(15世紀)に描かれたと考えられる《法師物語絵巻》です。

 

法師物語絵巻 15世紀 紙本着色 小田原文化財団蔵

 

 

こちらは、なんと杉本さんの所蔵品とのこと。

こういった貴重な古美術品が美術館で展示される場合、

作品保護の観点から、1か月ほどしか公開しないのが一般的ですが。

今回は、所有者の杉本さんの太っ腹な取り計らいにより、

会期中、場面替えすることなく、全場面が公開されるそうです。

 

法師物語絵巻(部分) 15世紀 紙本着色 小田原文化財団

 

なお、描かれているのは、

和尚と小坊主を主人公にした笑い話の数々。

個人的にお気に入りは、こちらの第四場面です。

 

法師物語絵巻(部分) 15世紀 紙本着色 小田原文化財団蔵

 

 

いつもご飯を炊く量を指で指図していたという和尚。

しかし、ある日、転んでしまい、

手足の指をパッと開いてしまったところ、

小坊主に大量のお米を炊かれてしまう羽目に(笑)。

さすがに足の指はカウントしないであげてほしいものです。

なお、棚の上にはメガ盛りの茶碗が何杯も置かれています。

ギャル曽根が食べるレベルの量です。

 

 

続いて、2階の第2展示室へ。

 

 

 

こちらで目を惹くのが、新作の「Brush Impression」シリーズ。

 

杉本博司 Brush Impression いろは歌(四十七字) 2023 銀塩写真 作家蔵

 

 

パッと見は、書に思えますが。

書でありながら、写真でもある。

そんな不思議な作品シリーズです。

コロナ禍でなかなかNYのスタジオに行けなかったという杉本さん。

3年ぶりにようやく戻ってみると、

大量の印画紙が使用期限を過ぎていることに気がつきました。

普通なら、それを破棄するところですが、

その印画紙の上に、現像液や定着液を浸した筆で、

文字を書けば、書のようになるのでは、と思い付いたのだそう。

かくして誕生したのが、「Brush Impression」シリーズです。

なお、薄暗い暗室内での制作のため、

手探り状態で書かねばならないのだとか。

そう分かった上で観ると、非常に味わい深いものがありました。

 

また、2階の展示室では、杉本さんの代表作というべき、

空と海をちょうど半分ずつ映した「海景」の数々も紹介されています。

こちらは、杉本博司が設計した壮大なランドスケープ、

江之浦測候所で、2021年に撮影されたという「海景」です。

 

杉本博司 相模湾、江之浦 2021年1月1日 ピグメントプリント 作家蔵

 

 

普段の相模湾は、漁船やコンテナ船が、行き交っているそうですが。

1年に1回、元日だけは船が無く、太古の海のような光景が広がるのだそう。

理想の「海景」はいつでも撮れるというわけではないのですね。

海景は一日にしてならず。

いや、海景は一日しか撮れず、といったところでしょうか。

 

他にも、鎌倉時代の仏舎利の容器に「海景」を嵌め込んだものや、

 

杉本博司 時間の矢 1987 (火炎宝珠形仏舎利残欠:鎌倉時代[13−14世紀] 海景:1980年) ミクストメディア

小田原文化財団蔵 ©Hiroshi Sugimoto

 

 

雨風に晒される外に設置したところ、

作品を保護するケースが破損してしまい、

そこから水が入り、まるで考古物みたくなってしまった海景など、

 

 

 

さまざまな「海景」がありましたが、

個人的に一番印象に残っているのが、

2023年今年に制作されたばかりの最新作です。

 

上)杉本博司 宙景 001 2023 年 ピグメントプリント 杉本表具 作家蔵

下)ギベオン隕石 1838 年発見 ナミビア、グレートナマランド ギベオン 鉄隕石、オクタヘドライト鉄、ニッケル 

敷板:天平時代 東大寺伝来 小田原文化財団蔵

 

 

ソニーと東京大学、JAXAが共同し打ち上げた、

超小型人工衛星にまつわるプロジェクトの一環として制作されたもの。

人工衛星に備え付けられたカメラを用いて、

杉本さんはこちらの写真作品を制作しました。

「海景」シリーズと同様、上半分が空で、下半分が海になっています。

「海景」シリーズは、ついに宇宙へ。

杉本作品の進化は、とどまる事を知りません。

星星

 

 

 

 

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