現在、泉屋博古館東京で開催されているのは、
“日本画の棲み家─『床の間芸術』を考える”という展覧会です。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
突然ですが、ここで問題です。
日本画を鑑賞する場所と言えばどこ?
おそらく多くの方が、美術館と答えたことでしょう。
しかし、それは明治以降に、
展覧会で鑑賞する文化が流入する前は、
日本画は暮らしの中で、つまり「家」で鑑賞されていました。
展覧会のために描かれた“会場芸術”に対し、
床の間をはじめ、邸宅内で楽しむ作品は“床の間芸術”と呼ばれています。
そんな“床の間芸術”にスポットを当て、
しかも、それを美術館で行うというユニークな展覧会です。
展覧会は全3章で構成されています。
まず第1章は、「邸宅の日本画」。
邸宅は邸宅でも庶民の邸宅ではなく、
泉屋博古館コレクションの礎を築いた住友家の邸宅を、
実際に飾っていた日本画の数々が紹介されています。
それゆえに、掛軸だけでなく、
屏風や衝立といった大物(?)も展示されていました。
もちろん、住友家の邸宅にも、床の間はあったようで。
その雰囲気が、一部再現がされていました。
また、日本画と工芸品を組み合わせる形でも展示。
日本画を絵としてただ鑑賞するのではなく、
インテリアを取り合わせるように楽しんでいたのですね。
ちなみに。
第1章で紹介されていた作品の中で、
もっとも印象に残っているのが、木島櫻谷の《震威八荒図衝立》です。
巨大な衝立に描かれているのは、
鋭い眼光で睨みをきかすクマタカの姿。
美術館で観る分には特に思いませんが、
もし、これが邸宅に飾られていたとしたら、
そのスジの方の邸宅なのかと思ってしまいそうです。
とはいえ、この絵の裏側にはちょっとした遊び心が。
パネルで紹介されていましたが、
クマタカから逃げるスズメが3羽描かれているそうです。
裏表のギャップが激しいタイプの絵でした。
さて、続く第2章は、「床映えする日本画」。
SNS映えではなく、床の間で“映える”日本画を紹介するものです。
おめでたい絵であったり、
四季を感じられるものであったり、
漢詩の素養が必要なインテリジェンスなものだったり。
そういったものが床の間に映えたそうです。
逆に、美人画は床の間ではそれほど好まれなかったようで。
ちなみに。
第2章で印象的だったのは、上田耕甫の《神雛之図》。
装丁の色があまりにもショッキングピンク過ぎて。
描かれている雛人形の印象が完全に薄れていました。
EXIT兼近のヘアカラー並のピンクです。
展覧会のラストを締めくくる第3章は、「床の間芸術』を考える」。
かつてに比べて、現在、床の間芸術は確実に減っているわけですが。
それ以上に、床の間そのものが減っています。
そんな現代の「家」に飾るべき床の間芸術、
いうなれば、シン・床の間芸術を、6名の若手作家が本展のために制作。
それぞれの若手作家が考える、新時代の床の間芸術が発表されていました。
いやぁ、床の間って本当にいいものですね。
展覧会を最後まで観ると、そう感じずにはいられません。
これまでほとんど意識したことがなかったですが、
展覧会を通じて、無性に床の間が欲しくなってきました。