現在、弥生美術館で開催されているのは、
“大正の夢 秘密の銘仙ものがたり展”という展覧会。
アンティーク着物ブームの牽引役でもある「銘仙」をテーマにした展覧会です。
着物がお好きな方なら、もちろんご存じなのでしょうが。
着物に興味が無ければ、字面だけ見たら、
「銘仙」はお酒の一種と思ってしまうかもしれません。
そこで、まずは「銘仙」について簡単にご説明いたしましょう。
銘仙とは、大正から昭和にかけて、
女性の普段着として日本全国に普及した平織の絹織物。
絹は絹でも、売り物にならない絹が用いられていたそうで、
木綿の服が一般的だった庶民にも手が届くことから、爆発的な人気を博したそうです。
今でいうところの、ファストファッション。
といっても、ユニ●ロというよりは、ユニ●ロ+Jといった感じでしょうか。
ちなみに、『はいからさんが通る』の主人公が着ているのが、銘仙です。
さて、銘仙にスポットを当てた展覧会は、
これまでにも日本各地で何度か開催されていますが。
本展では、銘仙蒐集家・研究家である桐生正子さんのコレクションが紹介されています。
俗に、銘仙の5大産地として知られているのが、
秩父、足利、八王子、桐生、そして、伊勢崎です。
その5つの産地の中でも、桐生さんは、
桐生でなく、伊勢崎のものが好みなのだそう。
それゆえ、出展作品の大多数を伊勢崎の銘仙が占めています。
実は、これまで伊勢崎の銘仙は、
展覧会であまりフィーチャーされることがなかったのだとか。
というのも、伊勢崎の銘仙は、5大産地の中でもひときわ柄が大きく派手めな印象。
銘仙のスタンダード・・・というわけではなさそうです。
関東圏ではそこまで人気が無く、むしろ関西圏で人気を博していたとか。
(↑今も昔も大阪の女性は、派手な柄が好きだったのですね)
なお、本展では、すべての銘仙ではないですが、
着物スタイリストの大野らふさんによるコーディネートも楽しむことができます。
派手な柄には変わりないのですが、
平面ではなく、マネキンに着せて立体的に展示されると、
不思議と、そこまで派手には感じませんでした。
そして、銘仙と同じくらいに、帯も派手なのに、
決して打ち消し合うのでなく、むしろ1+1が3にも4にもなっていました。
きっと、リアルタイムで銘仙を着ていた女子たちは、
こんな感じでファッションを楽しんでいたのでしょうね。
これまでの銘仙展が、銘仙を工芸品という視点で紹介していたのに対して。
今回の弥生美術館の銘仙展は、工芸品として、かつ、
女子のオシャレ、生き生きとした文化としても紹介していました。
間違いなく、自分が女だったら、
展覧会を観た後は、銘仙を着たくなるはず。
銘仙を身近に感じられる展覧会でした。
ちなみに。
ファッションは時代を映す鏡ゆえ、
時代が感じられる銘仙も多く紹介されていました。
例えば、こちらの銘仙。
ロシア・アヴァンギャルドを意識した銘仙です。
こういった前衛的な銘仙は、
主に職業婦人と呼ばれる女性たちが着ていたそうです。
また、数々の職業婦人の中でも、ビアホールで働く女性は、
当時の女子たちのファッションリーダー的な存在だったのだそう。
(今でいう、マルキューの店員みたいな感じ?)
エプロンこそ、お店のユニフォームですが、
その下に着る服は、各自のファッションセンスが問われるわけです。
当時、こんなカラフルな銘仙を着こなしていた店員がいたのですね。
色味的に、映画『クール・ランニング』を思い出しました。
その他にも。
日本初のバレエブームが起きた時には、バレリーナ柄の銘仙が発売されたり。
南極観測が話題になった頃は、ペンギン柄のものが人気になったり。
(展示されているのは、銘仙でなく帯ですが)
それらの中でもとりわけ衝撃を受けたのが、
昭和30年に一大スピッツブームが起きた頃の銘仙です。
仔猫とスピッツ紋様の銘仙。
キャラ化するわけでなく、リアルスピッツが表現されています。
1匹2匹くらいなら、まだカワイイ気もしますが、全身にびっしり。。。
真っ赤な背景のせいもあって、ドッグフードのパッケージ感が強いです。
“愛犬元気”的な。
今でいうダサTのようなものが、当時もあったのですね。
そして、ダサTをあえて着こなす、
ダサかわいいファッションのようなものもあったのでしょう。
ダサM。