現在、竹久夢二美術館で開催されているのは、
“明治・大正・昭和 レコードの時代と夢二の時代展”という展覧会です。
竹久夢二が活躍した時代と重なるように誕生し、
そして、その終焉を迎えたSPレコードに焦点を当てた展覧会です。
こちらが、そのSPレコード。
見た目は、LPレコードとほとんど変わりませんが。
SPレコードは、LPレコードに比べ、重くて硬いのだそう。
そして、何より一番違うのは、録音できる時間の長さ。
見た目はLPレコードのようなのに、5分程度しか録音できないのだとか。
そもそもLPレコードの「LP」とは、「Long Play」の略で、
対して、「SP」は、「Standard Play」の略なのだそうです。
本展では、そんなSPレコードの一大コレクター、
保利透さんのコレクションの中から選りすぐりの逸品たちが紹介されています。
それらの中には、現在放送中の朝ドラ、
『ヴギウギ』の主人公のモデルとなった笠置シヅ子のレコードも。
そして、そのライバル“ブルースの女王”こと淡谷のり子のレコードもありました。
また、初期のレコードは必ずしも、
音楽が録音されていたわけではなく。
浪曲や落語といったものも録音されていたようで。
中には、あのチャップリンのレコードもありました。
さらに、珍しいところでは、
渋沢栄一の講演を収めたレコードや、
与謝野晶子が自作の短歌を朗読するレコード、
日本画家の伊東深水が江戸小唄を歌ったレコードもありました。
他にも、東郷平八郎や東条英機といった、
歴史上の人物たちの貴重な肉声が入ったレコードが多々ありましたが。
極めつけともいうべきが、こちらのレコードです。
なんと、忠犬ハチ公の鳴き声入りのレコード!
一体どんな需要があって、
こんなレコードが作られたのでしょうか。
ちなみに。
今も昔も人の考えることは変わらないようで。
この時代にも、海賊版はあったそうです。
さらに、性質が悪いのが、写真左のレコード。
藤山一郎の歴史的ヒット曲『影を慕ひて』(写真右)と見た目は瓜二つ。
間違えて買うのを狙ったのでしょう。
よく見ると、スリーブの下部に、こんな一文が添えられていました。
これはもう確信犯ですね。
さてさて、明治・大正の華やかなレコードに対し、
第二次世界大戦に突入すると、スリーブは一転して地味なものとなります。
また、軽薄なイメージのものは一掃される風潮があったそうで。
昭和13年の段階では、「あきれたぼういず」と名乗っていた彼らは・・・・・
「新興快速舞隊」と改名させられていました。
「あきれたぼういず」の原型をまったく留めていないじゃん!
他にも、ヒトラーを礼賛するようなレコードがあったり。
SPレコードを聴くための蓄音機が展示されていたり。
レコードやその関連資料を通じて、
明治から昭和にかけての時代風俗を知ることができました。
ありそうでなかった、実に興味深い展覧会でした。
ちなみに。
竹久夢二の肉声が入ったレコードこそありませんでしたが、
同時代に描かれた竹久夢二の作品は、もちろん展示されています。
個人的に一番印象に残ったのは、こちらの一枚。
そのタイトルは、《ノンキナトウサン》です。
確かに、のんきにもほどがあります。