今年2023年は、帝国ホテル二代目本館、
通称「ライト館」が、開業して100年目の節目の年。
それを記念して、現在、豊田市美術館では、
“フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築”が開催されています。
近代建築の三大巨匠のひとりに数えられる、
アメリカ近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトの本格的な回顧展です。
ガウディに匹敵するくらい、日本でも人気の高い建築家ながら、
意外にも、国内で大々的な回顧展が開催されるのは、26年ぶりなのだとか。
実に、四半世紀ぶりのフランク・ロイド・ライト展ということになります。
出品数は、なんと約430点!
フランク・ロイド・ライト財団が所蔵する貴重な図面をはじめ、
ドローイングや写真、資料、出版物、家具の数々が一堂に会しています。
(注:展示室内は一部を除いて撮影禁止。
この記事に掲載している写真は、特別に豊田市美術館に提供いただいたものです。撮影:八嶋有司)
本展の見どころの一つが、「ユーソニアン住宅」の実寸大再現です。
ユーソニアン住宅は、富裕層だけでなく、
中流階級の人でも素敵な家に住めるように、というライトの思いから生まれたもの。
わずか12種類の建材(ブロック)を組み立てることで、
好きなサイズ、形の住宅を作り上げることができます。
その工法は簡素化されており、セルフビルドも可能。
人件費が押させられる分、建築費も少なくて済むというわけです。
IKEAの家具みたいなシステムを、ライトは早くから生み出していたのですね。
先見の明がハンパではありません。
そうそう、先見の明と言えば。
本展では、ライトが構想した都市計画の数々も紹介されています。
大バグダッド計画案 鳥瞰透視図 コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館 フランク・ロイド・ライト財団アーカイヴズ蔵
© TheFrankLloydWrightFoundationArchives
(TheMuseumofModern Art | Avery Architectural & Fine Arts Library, Columbia University, New York)
とりわけ印象的だったのが、1958年に発表されたリヴィング・シティ構想。
ライトが理想としたその都市には、
ドローンのようなものが飛び回っていました。
さらに、ライトは通信コミュニケーションの到来も予測していたとのこと。
先見の明を通り越して、もはや未来人なのでは?という気さえしてきました。
さてさて、本展では建築家としての側面だけでなく、
ライトの教育者としての側面にもスポットが当てられています。
池袋にある自由学園をはじめ、
教育のための施設を多く設計したライト。
活動拠点である自宅兼アトリエ「タリアセン」に、
一種の建築学校ともいうべきタリアセン・フェローシップを開設し、
性別や国籍を問わず、多くの若い建築家を育てました。
さらに、ライトのフェミニストとしての側面にもスポットが当てられています。
ライトの黒歴史(?)として知られるのが、
施主の妻と、ダブル不倫をした上でのヨーロッパへの駆け落ち。
そのお相手であるであったメイマー・ボートン・ボスウィックは、
これまでスキャンダルの当事者というような扱いで紹介されがちでしたが。
実は、メイマーは当時としては、先進的なフェミニストだったそうで。
彼女はライトと協働して、女性運動家の先駆者、
スウェーデンのエレン・ケイの思想や著作をアメリカに伝えたのだそうです。
一昔前の偉大な建築家の展覧会ゆえに、
懐古的な内容の展覧会なのだろうと思いきや、
現代に通ずる発見がいろいろある展覧会でした。
建築家という枠を超えて、今こそ改めて見直されるべき人物。
建築に興味が無いという方にもオススメしたい展覧会です。
ちなみに。
日本美術好きの方には、特にオススメです。
というのも・・・・・
ライトは大の浮世絵好き。
浮世絵のコレクターでもあり、集めるだけに飽き足らず、
自らのコレクションで、アメリカで歌川広重展を開催したほど。
さらには、施主にも、壁に浮世絵を飾るよう勧めていたのだとか。
それはちょっとはた迷惑なような・・・。
浮世絵が大好きだったライト。
その影響は透視図にも。
フランク・ロイド・ライト《ユニティ・テンプル 正面『フランク・ロイド・ライトの建築と設計』》 1910年 豊田市美術館蔵
近景として、あえて手前に木を描いています。
透視図としては、そもそも木なんて描かなくてもいいはずなのに。
それから、こんな日本美術との意外な繋がりも。
↑中央の模型は、1956年にオクラホマに完成したプライス・タワー。
ライトがその生涯で唯一実現した高層ビルディングです。
オクラホマとプライスと聞いて、ピンと来た方はかなりの日本美術通。
実はこの高層ビル兼住宅を建てたのは、
伊藤若冲ブームの立役者となったコレクター、ジョー・プライスのお父さん。
ジョー・プライスが父に設計者としてライトを薦めたのだそうです。
ジョー・プライスは日本の美術界だけでなく、
建築の世界にも大きな影響を与えていたのですね。