『翔んで埼玉Ⅱ』が公開され、再び脚光を集めている埼玉県。
そんな埼玉県を代表する埼玉県立近代美術館では、
現在、“イン・ビトウィーン”という展覧会が開催されています。
イン・ビトウィーン(In Between)。
境界の“狭間に立つ”4人の作家を紹介する展覧会とのことです。
まず紹介されていたのは、林芳史(1943~2001)なる人物。
在日韓国人二世として大阪府に生まれ、のちに日本国籍を取得しました。
美術評論家として、同時代の李禹煥や関根伸夫など、
アーティストの評論に関わる一方で、自ら制作活動も行っています。
その制作の中心となっていたのが、フロッタージュ作品。
刷毛やハサミといった身近なものをフロッタージュした作品を数多く制作しました。
こちらは、スケッチブックをフロッタージュしたもの↓
紙の上から紙を擦って、紙を浮かび上がらせる。
シンプルながら、禅のような哲学のような作品です。
(案外、作家本人はもっと単純な心持で制作したのかもですが)
展覧会では他にも、“イン・ビトゥイーン”な作家として、
ナチスに故郷を追われたのちに、アメリカに亡命した映像作家ジョナス・メカスや、
上海に生まれ、9歳で青森に移住、
以来、日本を拠点に活動を続ける注目の若手作家、潘逸舟さんが紹介されています。
4人の作家のうちで、個人的に一番印象深かったのが、
福沢一郎の絵画研究所に参加していたという画家・早瀬龍江(1905~1991)です。
初期はヒエロニムス・ボスを彷彿とさせる作品を描いていましたが、
やがてダリを彷彿とさせる作品を描くように。
40代の半ば頃より、日本の美術界と距離を置くようになり、
夫で画家である白木正一とともに、ニューヨークへと渡ったそうです。
1986年には生前唯一となる個展を開催。
その際に発表された作品の一つが、こちらの作品です。
肉眼で観るだけでは、この絵に隠された秘密には気づくことが出来ません。
というのも、「二元絵画」と名付けて発表された、
このシリーズの作品は、ブラックライトを当てることで、
絵の上に別の図像が現れる仕組みとなっているそうです。
今でこそ、カラオケボックスでお馴染みの仕掛け(?)。
それを1972年の時点で制作していたとは!
ここ近年、時代に埋もれてしまった女性画家の再発見がトレンドになっていますが。
早瀬龍江も、この展覧会を機に注目が集まることでしょう。
ちなみに。
個人的にイチオシの早瀬龍江作品は、こちらの《非可逆的睡眠》。
お酒を飲み過ぎて寝落ちする、
その瞬間は、きっとこんな感じなのかも。
なんか妙な心地よさを覚える作品でした。
なお、早瀬龍江および、林芳史とジョナス・メカスに関しては、
近年、埼玉近美の収蔵作家となったそうで、そのお披露目も兼ねている模様。
潘逸舟さんはゲストアーティストとして、この展覧会に参加されているようです。
そういうわけで、共通点があってないようなもので。
1つの展覧会というよりは、オムニバス形式の4つの小企画展というような印象でした。
さらに、埼玉近美では現在、
「アーティスト・プロジェクト#2.07」として、
“永井天陽 遠回りの近景”も同時開催されています。
永井天陽(ながい そらや)さんは、1991年埼玉県飯能市出身の彫刻家。
招き猫や信楽焼の狸といった身近な雑貨や置物などを、
透明アクリルで制作し、その中に関係のないぬいぐるみや人形を封入する、
「metaraction」と名付けた作品シリーズで注目を集める若手作家です。
見た目と中身は、別物。
その作風もまた、“イン・ビトゥイーン”。
潘逸舟さんと同じく、ゲストアーティストととして、
“イン・ビトゥイーン”展に組み込んでも良かったのでは?