現在、東京都現代美術館では、
“翻訳できない わたしの言葉”という展覧会が開催されています。
タイトルに“言葉”とはありますが、
言語学的なアプローチの展覧会ではありません。
例えば、一言で日本語と言っても、
その中には、方言のように地域差があったり、
世代間によって使う言葉が違ったり、異なる言語が存在しています。
いうなれば、一人一人に「わたしの言葉」があるのです。
そんな「わたしの言葉」をテーマにしたのが、この展覧会。
5人のアーティストの作品を通じて、
普段あまり意識することのない「わたしの言葉」を、
大切に思う機会を提示しようという展覧会です。
このハートフルなテイストといい、
独特の言い回しの展覧会タイトルといい。
昨年、東京都現代美術館で開催された、
“「あ、共感とかじゃなくて。」”を彷彿とさせるものがあります。
と思ったら、やはり同じ八巻香澄学芸員が企画担当した展覧会でした。
ちなみに、八巻さんはPodcast番組にご出演頂いております↓
さてさて。
本展の出展作家は、全部で5人。
その中でまず印象に残っているのが、ユニ・ホン・シャープさん。
東京生まれで、現在はフランスと2拠点で活動しているアーティストです。
出展されていたのは、《旧題 Still on our tongues》という作品。
こちらは、沖縄とフランスの言語政策に取材した作品です。
戦後、沖縄では本土の言葉を習得するため、
地元沖縄の言葉を使ってしまった児童に対して、
「方言札」なるものを首に掛ける罰則がありました。
実は、フランスのブルターニュ地方にも似たような風習があったそうで。
フランス語ではなく、地元のブルトン語を話してしまった児童は、
同じように罰則として、その首に木靴などがかけられたのだそうです。
その2つの事実を知ったユニさんは、
方言札の形をしたブルターニュ地方のクッキーを作ることに。
そして、それを食べることにしたそうです(笑)。
方言札といえば、ちょうど最近、
TBSのバラエティー番組のある企画が、
方言札を想起させると一部SNSで叩かれていましたが。
そうやってSNSで叩くのではなく、
クッキーにして食べちゃうくらいの感じが、僕は好感を持ちました。
ちなみに。
自分も作って食べてみたいという方のために、ちゃんとレシピも用意されていました。
ただし、うちなーぐち(=沖縄の方言)で、
書かれているため、自力で翻訳する必要があります。
続いて印象的だったのが、
アイヌとしてのアイデンティティを持つマユンキキさんです。
本展では、映像を含むインスタレーション、
《Itak=as イタカㇱ》という作品が展開されていました。
この作品の一部には・・・・・
マユンキキさんの実際のお部屋をなるべく、
忠実に再現したという空間が用意されています。
しかし、この空間に入るために、観客はあることをしなくてはなりません。
それは、マユンキキさんが制作したオリジナルのパスポートに目を通すこと。
アイヌとして表舞台で活動を続ける中で、
マユンキキさんのもとには、さまざまな言葉が浴びせられたり、
理想やステレオタイプを押し付けられたりしているそうです。
このパスポートは、そんな彼女が日常的に感じる恐怖や危険を知るためのアイテム。
マユンキキさんを理解し合えるための一歩となるアイテムです。
なお、部屋の中には、アイヌらしいと思えるアイテムも多数ありましたが。
謎のぬいぐるみもたくさん飾られていました。
『クレヨンしんちゃん』に登場する、
ネネちゃんのママに殴られてそうなフォルムのぬいぐるみです。
それからもう一人、印象的だったのが、
パフォーマーで体奏家(←体操家ではない)の新井英夫さん。
思い通りに言葉を表出しにくい、あるいは、身体が動かしにくい、
そのような人たちと向き合って、内なる「からだの声」に耳を澄まし、
尊重しあう身体表現ワークショップで高い評価を受けるアーティストです。
本展では、そんな新井さんがこれまでに行ってきたワークショップの数々を紹介。
会場ではそのうちのいくつかを実際に体験してみることができます。
どれも興味深いワークショップばかりでしたが、
あえて1つを選ぶなら、鈴ジャケットを使ったワークショップでしょうか。
前後に無数の鈴が付いたこのジャケットを羽織って、
音を立てずに、そーっと10歩歩いてみようというものです。
余裕だろうと高をくくって、チャレンジしてみたところ、
たまたま、このタイミングでバッタリ出会った八巻学芸員に、
「とに~さん、ずっとめっちゃ鳴ってますよ」と、ご指摘されました。
ちなみに。
“「あ、共感とかじゃなくて。」”と同様に、
本展にも、八巻さんこだわりのフリースペースが設置されています。
展覧会を一通り観終えたら、
こちらでダラダラ余韻に浸るのがオススメですよ。